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走馬灯が照らす
・17万打記念
・とらあなED





体調などお構いなしに彼らはやってきて、毎度毎度よく飽きないとは思うのだが、襲撃をしてくるのだからたまらない。
軽く咳き込みながら、アキラは刀を振るう。
それでも何とかできるあたり自分の刀の腕も上がったのかもしれない。
そんな風に、場違いなことを考えながら。


風邪を引いていることは、シキに言っていない。
こと細かに注意されるのが面倒ということはもちろんだが、何よりこうなってしまったのは己の責任だった。
いつ引いたかも定かではないけれど、思い当たる節はいくつかある。
なにより、少しくらいの無茶なら構うまいと、どこかで気が緩んでいたからこうなったのだ。
なにより風邪を引いていると言ったところで治るわけでもないのだから、放っておくしかない。
そもそも起きたらもうシキは仕事で出ていたし、いつ特定されたかは知らないが一人きりの塒に敵が流れ込んできたのだから、もうしょうがないだろう。
この街に来たのは二日前だ。
短い期間で塒を特定するあたり、街のごろつきが企てたものではないだろう。
思い当たる節がいくつもありすぎて、誰の差し金かはわからないが、ご丁寧に二人が別行動をとるタイミングを見計らっていたところを見ると、シキもこういった連中に襲われている可能性がなくもない。
尤も彼はこの程度苦にならないだろう。
情報収集は努力した癖、肝心の実行部隊はアマチュアだらけのようで、撃退すること自体はアキラにも難しくはなさそうだった。
とにかく早く相手を片付けて、寝てしまいたい。
そう思っているのに、数だけはいるようでいくら斬っても終わりが見えず、少々アキラの呼吸も上がってきた。
もう塒の中は血まみれで死体がそこらに転がり、罵声と怒号が飛び交う中、足の踏み場もない。
そのうちやっと敵の流れが切れた。
夢中で刀を振り回していたせいか、腕の痺れが遅れてくる。
まだこれからも捌かなければならない。
そう思い直して、改めて刀を構えなおした瞬間だった。
なにかが詰まったような感触の後、激しい咳が起きた。
動き回っている間に埃を吸ったか。
理由はわからないが、とにかく苦しい。
咳も止まらない。
室内の異常を感じ取ったのだろう、また実行部隊が乗り込んでくる。

人海作戦か。

もっと早くに気づいていれば、ここから飛び降りて逃げることもできなくもなかっただろうに、今頃退路は塞がれている。
荒い呼吸の下、アキラは刀を置いた。
そしてナイフに持ち替える。
生憎と、咳き込みながら刀を振れるほど器用ではない。
これだけ足場と視界が制限されている状況では、できることも限られてくる。
それでも、ここで終わるつもりはない。


咳が収まる気配はない。
時折、発作のように激しい波が来る。
戦えないわけではないから十分だ。
なによりあの男がいない。
こんな状況で斃れたらどれほどバカにされるか、わかっている。



「嫌になるな」



アキラは低く笑った。
死ねない理由が、男なんて。



「最低だ」



この状況を、シキならどう戦うか。
昔のようにそれを思い描きながら、アキラはナイフを構えた。





シキが障害物を排除しながら塒に入った時、アキラはもう血だまりに倒れていた。
なぜかその瞬間、背筋が粟立った。
その彼に向って振り下ろされかけた刃を握った腕ごと叩き斬り、次いで胴体を切り離す。
あっさりモノと化したそれをどかせば、もうその場に生きている人間はシキとアキラしかいなかった。



「無様だな」
「無茶言うな」



喋りながらアキラは咳き込んだ。
肺をやられた類の咳ではない。
風邪だろうか。



「己を管理もできん弱者が」
「ああ」



弱弱しくうなずいたアキラの体を、シキは軽く持ち上げる。
とりあえず血糊のついていないシーツを巻きつける。
血に塗れた体は冷えやすい。



「俺がいないと何もできんのか」
「やっただろ」
「結果だけ見ればな」



アキラは何がおかしいのか笑っている。
それに不服そうに顔をしかめながら、シキは担ぎ上げた体になるべく負担がかからないよう、すぐ移れるような宿がこの周辺になかったか、考えながら歩き出した。












走馬灯が照らす




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あきゅろす。
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