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「私はお前たちが心底羨ましい」



数多くの監獄を抱える城の中でも、そこは軍紀違反や、血の力に抗いきれなかった者たちを入れておくような、特別性の牢が設置されたエリアだった。
その声を聴く者など殆どいない。
軍人のなれの果てたちは狂ったように喚き散らしているし、多少正気の残っている連中も匂いにやられたか獣の咆哮を上げている。
軍紀違反の数多くは助命嘆願をして、残りはただ押し黙り、どこかを見ている。


ここが貴方に一番似合っていないフロアだ。


そう言ったのは、部下だったか。
彼らには清廉潔白に見えるらしい己が、どれほどの闇を抱えているかもきっと、所有者は理解している。
だが、どう考えても醜い嫉妬でしかない感情を、こんな出来損ない連中にすら抱いていることは、どうだろうか。
知られては生きていけない。
いつからかアキラは、そんな風に思うようになっていた。



「あの方の血を受け入れられるなど、私には死ぬときにしかできない」



刀ではなく、彼は拳銃を抜いた。
丁寧に弾丸を込めて、構え、撃つ。



「あの方とともに在れるというのは、どれほど幸福なことか」



それを何度も何度も繰り返していくと、声が段々と聞こえなくなってくる。
この連中は、これくらいでは死なない。
急所を外して撃っているのだから当然だろう。



「出来損ないの癖に」



怨嗟の声と、重い扉が開くのは同時だった。
振り返るまでもなく、誰が来たかはすぐに分かった。



「仕事熱心だな」



シキは笑いながら、アキラに近づいてきた。
その時には、もうそこら中から上がる怒号も悲鳴も、きちんと聞こえるようになっていた。
彼は叫びに目を細め、一通りそこらの牢の中身を視線で確認してから言った。



「だがそれは看守の役目だ」
「貴方の兵という自覚の足りぬ連中が許せないだけです」



アキラはもう普段通りの表情で答えていた。
先程の声や表情が嘘であったかのように、その顔からは何もうかがい知ることはできない。
シキはそんな彼の手を掴んで牢から出た。
牢の外は光に溢れていた。
季節柄なのだろう、吹き抜ける風も心地よい。
そんな光に満ちた道を歩きながら、シキは不意にアキラを真正面から見た。
思わず身をすくめた彼に対し、そう緊張するなと、すぐさま彼は笑う。
そういう風にされるたびに己の醜さを痛感するのだ。
彼は何かと笑っている。
それを見る兵も多いだろう。
それからして許せない。
姿を見せることも、声を聴かせることも嫌だ。
シキの執務中は嫌なことしかない。
なにより、そんな己が。



「アキラ」



名を呼ばれて、アキラは我に返った。
今は内省をしている場合ではなかった。
慌てて頭を下げようとすると、彼はそれを手で制した。



「それよりお前に聞きたいことがある」
「…なんでしょうか」
「ほしいものはないか?」



貴方だといえたらどれほど楽だろう。
アキラは唇を動かしかけて、やめた。
いつからか、シキを思う心は肥大し、何もかも飲み込んでいくようになった。
それこそ、シキを今見ている人間をすべて消してしまいたい、血を受け入れた連中を滅ぼしたいと思うほどに。



「なにも」



数秒おいて、殆ど聞き取れないほどの声音で出した答えに、シキはただ黙っていた。
結局彼は何も言わず、ただ小さく笑って再び手を掴み、歩き出す。


触れられる権利などない。
何も考えず、ただシキに心酔していられたら、どれほど幸せだろう。



俯きがちに歩きながら、アキラは目を閉ざした。
この感情はそう遠くない破滅を引き起こす。
判っていても、彼にはもうどうすることもできなかった。





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