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天から裂けろ
・17万打記念
・とらあなED

思い返してみれば、今日はやたらと黙り込んでいた。
普段から口数が多いほうではないから気にしていなかった。
そういう意味では確かに、変化はあったのだ。
食欲も、普段に比べてなかったように思う。
普段が食べ過ぎであるから、やっと人間らしく振舞えるようになったのかと思っていたのだが。
なにより、背中に注がれていたまなざし。
あれが大きな違いだった。
やたら真剣に、食い入るように見られていたことをすっかり忘れていた。
人間は不変の生き物ではない。
そういう変化もあるだろう。
そんな風に考えて、所有物の出すサインをことごとく無視し続けてきた末路がこれらしい。



寝込みを襲われることは、不服にも数多く経験している。
トシマにいた時より前、長らく軍属だった頃などそれはもう酷い有様だった。
どいつもこいつも学習能力のない愚か者であったがために、いちいち行く先々で思い知らせてやらなければならなかった。
そんな経験からか、目下こういう状況では殴り飛ばすという選択しかとってこなかった。
今にして思えば、ほかにもバリエーションを増やしておくべきだった。
というよりもあの時から、状況が変化してしまったため対応できないのだ。
あの時は、こちらが受け入れる側という前提での対応だった。
今は。




思わず現実から遠く離れた思考を引き戻すように、なにやら啜る音と甘ったるく鼻にかかった声がした。
とりあえずこれはどうするべきなのか。
肘をついて上半身を起こしたシキは、己の股座に顔を埋めている連れを、ただ茫然と見ていた。


飢えさせた記憶はない。
仮にそうだとしても、寝込みを襲われる筋合いはない。
否。
もしや足りなかったのか。
ぐちゃぐちゃになっていく思考の中、不意にアキラが顔を上げた。
光は窓から差し込んでくる月明かりしかない。
それでもはっきりわかるほど、彼の唇と顔回りは濡れていた。




「ああ」




異常な状況にもかかわらず、割かし普通に、アキラは声をかけてきた。




「おはよう」
「何をしているこの戯け」
「しゃぶってるな」
「そこに直れ」




思わずシキは声を荒げていた。
そんなものは聞かなくてもわかっている。
するとアキラは、おとなしくベッドに腰掛けた。
思った通りというか、寝乱れた格好で。




「何故起こさなかった」
「よく寝てたから」
「寝込みを襲っていいと誰が言った」
「アンタ、トシマでのこと忘れてないよな」




確かに、シキの中にも、トシマで何度か、気絶したままのアキラをいいようにした記憶がないわけではない。
しかしそれとこれとは別だ。
所有物が所有者にしていいはずがない。




「アンタにされたことをしてやろうと思っただけだ」




こともなげにアキラは言った。
酒か薬でも入れているのか。
思わずシキは、連れの精神状態を疑問視せざるを得なくなった。
そしてきっとこの男が仮にトシマでの経験を復讐するにしても、方法がひとつしかないであろうことも親切心から指摘してやった。




「…跨ってか」
「……別にいいだろ方法はなんだって」




アキラはやたらと早口に言った。
きっと今彼は、妙に赤くなっている。
シキは嘆息し、アキラの髪をぐしゃぐしゃ撫でた。
相手をしていなかったわけではなかったが、アキラなりの求め方、なのだろう。
そう好意的に解釈することにした。




「…聞かないでおいてやる」
「…そうか」




兎に角、アキラがこうせざるを得なくなった理由はわかった。
だから、シキはいきなりアキラの顎を掴んで言った。




「それはもう構わん、続けろ」
「は?」
「咥えろと言った」




アキラはしばし硬直していたものの、何度かシキの指が唇を撫でていたら、また赤くなりつつ顔を下げていく。
とりあえず、二度とこうされないためにも徹底的にしたほうがいいか。
癖のついた髪を弄びながら、シキはそんな風に考える。
そして、トシマのころからすっかり変わってしまった男の背骨を、なぞった。













天から裂けろ





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あきゅろす。
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