[携帯モード] [URL送信]


とかげが跳ねる
・17万打記念
・とらあなED





「なあ」



伝えることが巧くはないし、そもそも話すことが得意ではない。
するとこういうとき、困る。



「…なんでもない」



呼んでおきながら、恐ろしく長い時間考えて、やっと言えた言葉がこれだった。
シキは視線すら寄越さず、特別なんの反応も示さなかった。
彼は本を読んでいる。
例によってアキラには判らない、別の国の言語だ。
対してアキラは横になったままだった。
動けないわけではない。
ただなにもすることがなく、寝転がってシキを見ていた。
そうしたところ、なにやら言いたくなった。
珍しいことである。
しかし言葉が出ない。
顔を見ればまだなにか言えるのでは、と思ったが、やはり駄目だった。



「用がないなら呼ぶな」



それはごもっともだ。
しかし言われたアキラは異様に腹が立った。
だから枕を投げつけたが、シキは易々止めて、その場に置く。

確かに伝えたいことがあった。
それを言葉に出来ないだけで。



「なんの真似だ」
「腹が立ったから投げた」
「ほう」
「最初から聞く気なんかない奴に言うことはない」
「言葉を選る時間が惜しくてな」
「ならもうアンタは俺と喋らなくてもいいよな」
「お前が俺に有益なことを今までいくつ言った?」



伝えたいことは口に出来ない。
しかし罵り合いだけは巧くなってしまった。
アキラは押し黙り、シキを睨む。
相変わらずシキは見向きもしないが。

アキラは嘆息し、ベッドから起き上がった。



「俺は」



なんとなく、ではあるが、シキのいる空間が好きだった。
しかしそれを伝える術がなかった。
というより伝えてどうなる。
そう思ったけれども、引くに引けない。



「暇つぶしになる相手がいないんだ」



苦し紛れに出た言葉にシキは反応した。
そこにある表情が憐れみなのは無視する。



「だから」



ここからがもう駄目だった。
言葉にならない。
絞り出すように何度か呻きく。
なにも浮かばなかった。
しかしどういうわけか、シキの目がまた本に戻る素振りを見た瞬間、咄嗟に言っていた。



「他、見るな」



言ってから、アキラは黙り込んだ。
あくまでも、本を読むなと言いたかったのである。
しかしこれではまるで。
弁解しようにも、男の目の輝きが恐ろしい。



「やっと素直になったか」



素直、とはなにか。
人聞きが悪いにも程がある。
とはいえまずは、本を置いた男をいかに回避するかが肝要だ。
アキラは腰を少々浮かせた。
逃げられる可能性は薄いけれども、やらねばならない。
二人でこういう馬鹿なことをしているときが、案外好きなのだとは、言わないでおいた。










とかげが跳ねる




[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!