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脱兎の首輪
・17万打記念
・とらあなED







「どうしようもないな」



柱の陰、息を潜めたアキラは一言ぼやいた。
助っ人で呼ばれ来てみれば、もうそこら中に銃弾がばらまかれていた。
こうなると流れ弾が恐ろしい。
逃げるべきだ。



「知らん」



だが、この男は違うらしい。
仕事は、敵の頭を潰すことだ。
そして頭はまだ止まっていない。



「そうか」



それだけ言って、アキラはもう刀の柄に手を掛けていた。
シキがそう言うなら動くしかない。
悲しいかな、アキラには力ずくでシキを止める術がなかった。



「おい」



言葉とほぼ同時に十字架を引っ張られた。
この男はどうやら引っ張り易いようにとわざわざ首に巻かせた二つの輪の存在などすっかり忘れているらしい。
頻繁にこの十字架の片割れを引っ張る。
確かに、この首輪自体に意味があるわけではなかった。
ただ単に、飾りだ。
それもシキ好みの、悪趣味極まりない。
その悪趣味に凝り固まった服を着ている己が言えたことではないが。



「聞こえてる」



このネックレスの鎖は細い。
シキの力なら簡単に千切れてしまう。
それは困るのだ。
自分でもはっきりした理由を付けることはできないが、とにかく困る。



「なんだよ」



シキは表情を隠してしまっていた。
こういうとき、アキラは目の前の男が読めなくなる。
こう見えて表情豊かなのだ。
笑い方も違っていたりする。
その彼がこういう顔をすると、なにもわからない。
そしてわからないという状況は決して心地よいものではなかった。
早く離せと言わんばかりに手首を払うと、思いのほかあっさり指が十字架から離れた。



「これは飾りか」



シキは今度は首輪を掴んだ。
今までの無表情はどこへやら、にやにやとあまり好意的ではない笑みを浮かべている。



「飾りだろ」



何を今更。
そう吐き捨てて、刀を抜く。
弾が柱を抉る時はそう多くない。
闇に乗じて近寄ることは難しくなさそうだった。



「お前を縛るものは」



シキは相変わらず笑っていた。



「脆いのだな」



アキラはなにも返さなかった。
縛られているつもりはない。
しかしこれがない状況を想像出来ないことも事実だった。
まだシキはなにか言いたげであったけれども、アキラは走り出していた。
妙な話をしたせいだろう。
走っている最中、時折鈍く煌めく胸元の鎖が、酷く存在を主張しているように思えた。









脱兎の首輪




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