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笑声ノイズ
*とらあなED





アキラにしてみれば、今までの数時間は間違いなく厄日だった。
共有していたベッドから突き落とされるし、凍結していた道路で滑るし、要らぬ良心を働かせて命乞いをするスリを助けたところ男達に囲まれるし。

けれども、現在までの過程でやむを得なかったのだとすれば、仕方がない。

我ながら現金なものだと苦笑しながら、アキラは紙コップに口を付けた。
シキはそれをただ眺めていた。
信じられないものでも見るような目つきで。

「アンタにもあったんだな。苦手なもの」

アキラが笑いながら言うと、シキの表情は不機嫌そのものといった様子になった。
それがいやにおかしくて、ますます笑みは深くなり、同時に眉間の皺も目立ち始める。
このままでは臍を曲げてしまう。
彼が努めて笑みを引っ込めようとしても、どうしても我慢出来なかった。

「旨いと思うけど」

アキラが数回おかわりまでして呑んでいるものは、そこかしこで配られてた。
理由は知らないが、なにかめでたいことがあったらしく無料で配っているのだと、注いでくれた男は笑っていた。
そのため彼らのいる広場は、甘い匂いが満ちている。
白くて甘く、少しだけ酒の匂いがする暖かい飲み物。
名前は知らないけれど、アキラはこの飲み物をいたく気に入っていた。
対するシキは、呑めたものではないとばかりに腕を組み押し黙っていた。
アルコールが強くて、匂いも味もきつい酒を好む彼にしてみれば、恐らく甘ったるすぎるのだろう。

「酒ならなんでも呑めるんだと思ってた」
「それが酒だと?馬鹿が」

シキは冷たい声音で言い放ち、次いでますます表情を険しくした。

「貴様酔っているのか」

その言葉を受け、アキラの中で収まりかけていた笑いが再び浮上してきた。
酔うだなんてそんなはずはない。
酒だって入っているのだろうが、こんな弱いものでまさか。

「心配性なんだな、それも知らなかった」

緊張感のまるでない笑い声に、鋭い舌打ちを一回。
シキは無言のままアキラの手を掴み、引きずるようにしてその場から遠ざかった。
アキラは、あまり事態を飲み込めなかった。
ただ少し重くなった体を動かして、自分のことを心配してくれているらしい連れの背中に、柔らかく笑んだ。





笑声ノイズ

 
 

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