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天と地の狭間で瞳を閉じた
*ED2





一通りの残務を終えて、アキラはシキと共有している寝室へ向かう。
月の姿は見えない。
抑えられた灯りを頼りに進んでいくと、その扉は見えた。
もう深夜と言って差し支えない時間である。
彼の寝室へたどり着くことができるのは自分だけである。
そのため声はかけず、ノックだけに留めて扉を開けた。
アキラは、そこで珍しいものを見ることとなった。
眠れないといつも笑っている主が、ソファに体を投げ出して眠っていた。
てっきりシャワーでも浴びていつものように待ち構えているのかと思ったのに。
アキラは少々拍子抜けながら、足音を殺して近づいた。
それでもシキに起きる様子はない。
狸寝入りを決め込んでいるのか。
寝たふりをして、度々アキラをからかうことがあるシキであるから、あり得ない話ではなかった。
かといって一概に、寝ていないと判断を下すことはできない。
答えを出しあぐねたアキラは、結局短く息をついただけ。
ベッドへ歩み寄ると、置き去りにされた毛布を掴み、そっとシキに掛けた。
そして彼自身は、やはり起きようとしないシキをただ見つめていた。

大概アキラより遅く寝て、早く起きる主の寝顔など、見たことがなかった。
あの苛烈な赤が見えないせいだろう、眠ってしまうとひどく穏やかな顔に見えた。
なんとなくあどけなさすら伺えてしまって、アキラは微かに笑った。
まだ王は起きない。
眠る必要などないと言い放ち、夜な夜な動き回る彼の体には、少なからず疲労が蓄積されている。
シキは確かにあの血を受け入れ、強くなった。
しかし人間であることに変わりはない。
ましてやこの世界では唯一無二の存在。
国にとっても、アキラにとっても。


「何故」

その主は、毛布を掛けてからほどなく目覚めてしまった。
アキラを見つめる赤い目には、寝ていた気配など微塵も感じられない。
ただ彼を捉え数回瞬きしたかと思うと、逸らされた。

「何故起こさん」
「…寝ておられましたので」

鼻で笑ったシキは、サイドテーブルに置かれていた酒を一口呷った。
所在なく立っているしかないアキラを見ることなく。

「俺を起こさず、お前は此処でなにをしていた」

何、とは。
アキラは少しだけ思考を巡らし、思わず顔を赤らめてしまった。
毛布を掛ける以外にしたこと。
ずっと、シキの寝顔を見ていた。
言えるはずもなく、黙り込んだアキラを鋭い視線が貫いた。

「言え」

言えない。
押し黙るアキラを見つめる主の唇が、弧を描いた。
この後の展開など容易く想像がつく。
シキに負担をかけるわけにはいかないと思う反面、正直に言ったとしても結末は変わらなさそうでもある。
アキラの唇が戦慄いたものの、それきり、言葉を発することはかなわなかった。





天と地の狭間で瞳を閉じた 


 

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あきゅろす。
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