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煩く卑猥な世界の無音
*ED2





あの血を受け入れて以来、シキの中の欲求の殆どが消えてしまった。
元々こだわりのなかった食欲に始まり、殊睡眠に関して言えば、そもそも浅かった眠りへ、入ることすら難しくなってしまった。
ありとあらゆる音と、ほんの僅かな布擦れだけでも彼の眠りは妨げられてしまう。
一国の総帥となった現在、多少なら眠れるようにはなったが、それでも一時間程度。
それだけでシキは満足し、覚醒する。
戦場だろうが閨の中だろうが、変わることはない。
静まり返った夜、見えすぎる赤い目を外へやり、なにをするでもなく眺めるのが習慣だった。


口うるさい相伴が、いなければ。


暇潰しに呷っていた酒はもうなくなっていた。
それを取りに行く気にもならず、シキはただただ夜空を見る。
城の中から音が絶えて久しいのに、やはり眠る気が起きない。

とは言っても、眠らない時間に出来ることは少ない。
酒を飲むか、空を見るか、さもなければ散歩でもするか。
尤も散歩に関して言えば、一回だけ城内をぐるりと廻り帰ってきたときの馬鹿騒ぎを考えると、有り得ない。
一番暇潰し出来ると言うと、アキラの観察になる。
しかし大概観察では終わらなくなるため日頃慎んでいた。
なにしろ愛らしい寝顔だから、他愛もない児戯をしたくなってしまう。

シキはその時のことを思い出して、低く喉を鳴らした。
彼の視線は、窓から寝台へと移っていた。
酒に付き合わせたら酷く酔い潰れて眠ってしまった、所有物。
普段の取り澄ました顔がまるきり崩れて、飲むわ絡むわの乱痴気騒ぎであった。
ふと、シキの目尻が和らいだ。
アキラ以外のあの騒ぎようを聞いたなら、耐え難い苦痛だろう。
たとえ暇潰しになるとはいっても。
そう考えると、随分自分はアキラに絆されているらしい。
眠らぬ主を心配するくせ、何より己が主の暇な時間を潰しているのだと気づかない。
それがなんだか可笑しく、シキは、彼にしては珍しい微笑を浮かべた。





煩く卑猥な世界の無音


 

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