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今朝の出来事
*ED3





クリスマスという行事を、かつて誰かが言っていた。
誰かがプレゼントを届けてくれるとも聞いた。
そのためにどんなことをして、どうすればいいのかは覚えていなかった。
ただひどく騒がしくて、そのくせ案外嫌いではなかったと、朧気ながら記憶していた。


だからアキラは、それを再現しようとした。
あのときあったものは、酒だけだった。
しかしそれでは面白みがない。
城の使用人に話せば、目を丸くして、恭しく頭を下げた。
暫くしてから使用人が持ってきたものは、ケーキだった。
酒が飲めないアキラには丁度良かった。
彼はついでに紅茶を用意し、待つことにした。
その日に帰ってくるか定かではない、所有者を。


案の定、長い針が短い針と重なっても、冷たい寝室の扉を開けるものはいなかった。
怒り狂って部屋中を荒らし回ると思われたアキラは、彼らしからぬ辛抱強さで、癇癪を起こすことなく窓の外を見ていた。
膝を抱えてベッドに陣取るアキラの体が、縮こまった。
きっと彼は帰ってこない。
判っていたはずが、何故こんなことをしているのか。
自嘲をこぼして、アキラは目を閉ざした。
もう冷たくなってしまった紅茶も、痛んでしまったケーキも、どうにかする気すら起きなかった。
ただ寒かったから、普段口にしない強い酒を少しだけ飲んでみた。
酒で喉を焼かれる感触は妙に懐かしく、可笑しさから笑ってしまった。


その日アキラは夢を見た。
所有者が帰ってきていて、二人でケーキを食べていた。
甘いものが嫌いな彼は、いつものしかめっ面を見せ、酒で何とか流し込んでいた。


ただそれだけの夢。
目を覚ませば空は明るく、所有者もいない。
自嘲したアキラは、身を起こしてから違和感に気づいた。
部屋が散らかっているのは変わらない。
しかし、ベッドサイドの小机の上に鍵はなかったはずだ。
いそいそ近づいたアキラの手に握られた鍵は、日の光に照らされ鈍く光った。
見たこともない鍵だった。
アキラは皆目見当のつかないそれを持って、寝室を出た。
適当に捕まえた兵に問いただせば、それは執務室の鍵だという。
相槌だけ打って、彼は踵を返した。
その歩く早さはだんだん上がっていき、執務室前に着いた段階で、アキラの息は切れ切れだった。
うまく入らない鍵を押し込み、ゆっくり扉を開ける。
部屋の中でただ立っていたシキは、すぐアキラを見た。「…おかえり、早いな」
「お前がいい子にしていれば、いつでも早く帰ってくるのだが」


なにやら面白いことを考えていたそうだな?
口角をつり上げたシキは、手を掲げた。
その腕に誘われるようにアキラは歩いて、最後は飛びかかった。
しっかり抱き締めてくれた逞しい背中に確認も兼ねて手を回し、彼は笑った。


どうやら誰かさんは、いい子にしていればアキラにもプレゼントをくれるらしい。





今朝の出来事


 

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