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君と雨雲とメントール
*とらあなED





その日アキラはどうにも動く気になれず、体を軋むベッドへ投げ出して、ただ空を見ていた。
厚く黒い雲が、風に乗ってかなり早く動いていく。
もうすぐ雨が降るかもしれない。
そうなったほうが、彼を苛む倦怠感を払拭してくれそうに思えた。
とにかく頭が重い。
ここ最近、このような状態に陥ったことなどなかった。
どうしたことか。
彼はため息をついて、空から視線を外した。
眠いのかどうかも判らなかったが、仕方なく目を閉ざした。
そうしていれば、僅かではあるが不快感から逃れられる気がした。


目を覚ましたはずなのに視界は濡れたタオルで覆われていた。
状況が理解出来なかったアキラは、しかしどういうわけか動けなかった。
不快感のみだった症状は、様々な形に変化して全身へ広がっていた。
体は鉛のように重い。
心なしか喉もいがらっぽく、何よりうまく頭が回らない。

風邪だったのか。

アキラの中で合点がついたとき、小さな咳が口をついた。
それを聞いたからなのだろう、足音が近づいてくる。
いつもより静かなそれは、アキラの側で止まった。
そしてゆっくり、濡れたタオルを退けた。
アキラは瞬きを数回繰り返し、やっと目を開けることができた。
奇妙に歪んで見える視界の中、やたら白い手が伸びてきて、額を撫でた。
冷たさが心地よい。
つい目を細めた彼を笑ったらしく、低い声が空気を打った。
目を開けていることも億劫だったアキラは、相手が見えたことによる安堵に微笑み、再び視界を閉ざした。
その瞼の上から額にかけて、よく絞られた布が当てられた。

先程まで気づかなかったのだが、その布からはなにか匂いがした。
それがなんの匂いだったか、アキラには思い出せなかった。
ただ冷たい感触と、それに見合う匂いは、彼の症状を幾分和らげているように思えた。
そのせいか、特に寝苦しさを感じることなくアキラは再び眠りに落ちていった。
似合わない優しげな声音で問いかけられたような気もしたけれど、雨音で聞こえないふりをした。






君と雨雲とメントール


 

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