[携帯モード] [URL送信]


苦労人
*ED2





雪というものは、軽そうに見えて意外と重い。
固まってきていたから尚更。
アキラは朝からずっとバルコニーの雪を掻いていたけれど、もう腕が痺れてきていた。
この時期、城周辺は時折吹雪いていたりもするが、昨日から今日にかけての荒れ具合は凄まじいものがあった。
至る所で転倒が多発し、そしてとうとう彼まで。

尤も、そうなった原因は年甲斐もなくはしゃいだせいである。

スコップを窓際に置いて息を吐いたアキラは、閉めておいた窓を開けた。
広いベッドの中、うつぶせ寝をしているシキの執務を代行しなければならない。
腰を強打した彼は、起きあがれないらしかった。
医師団の話では打撲、安静が言い渡された。
しかし、相手はシキだ。
どこまでが真実でどこまでが嘘か、曖昧であった。


「よく晴れておりますよ」


アキラの言葉を受け、相槌があった。
それは、注意深く耳を澄ませて漸く聞き取れるような声だった。
まだ警戒心の抜けきらないアキラは、ベッドサイドまで歩み寄ると、徐に身を屈めた。


「体を起こすことは出来ませんか?」


動いたのは体ではなく、首。
すこぶる元気な顔、そしていつもの目をしたシキの唇が、動いた。


「願いがある」


ほらきた。
アキラはつい胡乱になる目を伏せ、努めて真摯に頷いた。
だがあくまでも、私に出来ることならなどとは言わない。
願いを聞くだけである。


「なにか」
「あの格好をやれ」
「出来かねます」


あの格好、というのは昨日どこから発注したのか、執務室に置いてあったサンタの扮装のことである。
どうやら祭日であったらしいから、百歩譲ってそれはいいとする。
問題は、やや丈が長い上着の下、本来なければならないズボンがないのか、ということだった。
執務を終えたシキはそれを取り出し、吹雪の中雪合戦をしてどちらか負けた方が着る、という遊びをふっかけてきた。
あからさまになにかを狙いすました言葉に、アキラは応じた。
断ればどうせ無理難題を押し付けてくる。
そして始まった数分後。
シキは、今の状態におかれる羽目になった。
もう少しなんとか出来なかったのか。
アキラが黙っているのを横目に、シキはいきなり呻きだした。
かなりわざとらしく、芝居であるとわかりきった振る舞いだった。


「…ああ…痛い。あの服を着たお前がマッサージをすればよくなるやもしれん。腰を前後させる運動も」


皆まで聞かず、アキラは立ち上がってその部屋から出て行った。
追いかけてくる声をすべて無視し、まだのろのろ雪かきをしている兵達の真ん中で、スコップを繰り出し始めた。
その正確無比な動きと鬼気迫る形相に、高嶺の花は何時も以上に声をかけられない存在となっていた。





苦労人


 


[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!