[携帯モード] [URL送信]


うららかな惨状
*とらあなED





雪は思いの外降り積もっていた。
まとわりついてくる重みが、とにかく煩わしい。
買い出しの荷物と普段持ち歩く荷物、更に刀を抱えた状態で、四苦八苦進んでいたアキラは、ふと妙な音を聞いた。
音の先、アキラから見ると前方にあったのは、廃ビル。
以前は居住区だったのだろう。
この地帯一帯に同じような形状のそれらが林立している。
今はもう住む人間のない、その中の一つが、唸るような音を上げた気がした。
追っ手か。
荷物を置き、刀の柄に手をかけたアキラの目の前で、先程唸っていたビルが、突如として倒壊した。
爆薬によるものだろう。
次から次に崩れ行く廃ビルの中に塒として利用していたものが含まれていたと気付いたのは、巻き上がる白煙と埃から逃れ、崩れたビルの残骸に腰掛けていた時だった。
幸い塒にシキはいない。
多分、爆発はシキを狙ったもの。
アキラは立ち上がって、刀を抜き放つ。
様子を見に来たのだろう、のこのこやって来た連中がアキラに気づき、止まった。
向こうは何かを言ったようだが、彼は言葉もなく、雪の中を疾走した。
普段よりも遥かに高ぶっている気がしたけれど、塒が壊されたせいだろうと、片付けた。




シキが仕事を終えて帰ってきたとき、ちょうど太陽が真上にあった。
今朝から降っていた雪は随分と前に止んでいるものの、溶ける気配はない。
本来この雪を踏む人間は、今ビルを利用しているシキとアキラしかいないはずである。
しかし彼がいつもの道を通ってたどり着いたそこの雪は、ぐちゃぐちゃに踏みつけられていた。
ただでさえ汚らしいというのに、そこに何人かの死体が転がっているのだからシキの顔は歪むばかり。
あげくの果てに、ビル群がものの見事に崩壊し尽くしている。
果たしてアキラはどこへ行ったのか。
彼らしからぬ、立ち尽くすという行動を妨げたのは、崩れたビルの隙間から見えた、銀髪だった。
ちょこちょこ動き回るそれをしばし見ていたシキは、大股で近づき手を伸ばしかけ、

「お帰り」

顔を見せ、いつものように挨拶してきたアキラを見つめ、手を下ろした。
怪訝そうな光を宿す目から視線を逸らし、ビル群を改めて見回す。
無事な棟は、ないらしい。

「…荷物は俺が持ってたから、全部無事だぞ」

他になにかないか、探してただけで。
そう呟いたアキラの顎を掴み、シキは顔を確認しだした。
顔の次は首、次は腕といった風に、ありとあらゆる場所を見ようとするシキの髪を掴み、アキラは言った。

「今日のアンタは、変だ」
「変、だと」

シキは笑った。
所有物に傷が付いていないか確認するのは、所有者の務めと己に言い聞かせて。





うららかな惨状


 


[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!