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戦いの最中に何を見る
*ED2





雲の多いトシマであるが、今日は見事な晴天だった。
これを指して秋晴れと言うのだろう。
いい塩梅の気温と相まって、その日のアキラの機嫌は、表情からは伺えないもののすこぶる良かった。

仕事に追われるシキのために紅茶を入れて、一緒に休憩を取ろう。

そんなことを考えながら、一通り目を通した書類の山を、危なげなく運んでいたときだった。
通りかかった中庭で、シキが焚き火を起こそうとしていた。
その傍らにうず高く積まれたのは、さつまいも。
決算を済ませて、気分転換でもするつもりなのだろう。
なら丁度いい、早く置いてきて紅茶を淹れねばならない。
手際良く着火準備を進めるシキの背中を微笑ましげに見ながら、アキラは歩を進める。
暫く進んで、何故か落ち着きのない衛兵が執務室の扉を開いた先。
今アキラが抱えているものより遙かに多かったはずの書類は、綺麗さっぱり消失していた。
例えそれが決算済みであっても、総帥が手がけた書類は全てアキラが処理する。
それが、ない。
アキラの手から、書類がすべり落ちた。
危ないところで全て確保した衛兵には一瞥もくれず、来た道を全速力で引き返した。
彼が中庭に到着した時、シキは燃え上がる書類の山にさつまいもを投下せんとしていた。
アキラは手近にあった砂の詰まった袋を焚き火の中へ放り込み、自らも足で火が完全に鎮火するまで踏みつける。
その光景を前にして、さつまいもを持ったまま、シキは立ち尽くしていた。
漸く鎮火した頃、書類はやけ焦げ砂まみれ、更に足跡も付いた。
傍らには、焼かれるのを待つさつまいもの山。
なんとも嫌な沈黙の中、瞬時にして、お互いの視線がかち合った。


「俺の邪魔するか、アキラ」
「邪魔もへったくれもないと思うのですが、シキ様」


感情を排した声が、静まり返る空間へ響き渡った。
遠巻きに恐る恐る様子を伺っていた兵達は、慌てて身を隠し始めた。
彼らはこの状況下、二人の視界に入ろうものならどうなるか、よく理解していた。
それなのに、なにを思ったか執務室前付きの衛兵が、大量の枯れ葉を袋に詰め込み運んできた。
彼の通り道に潜んでいた兵が制止したものの、間に合わない。
遠目にも震えていると判る指先で袋の結び目を解き、彼は言った。


「閣下、もし宜しければ、お使い下さ、い」


赤と青の視線が、ゆっくり振り向き。
次の瞬間響き渡ったアキラの怒号とシキの罵声と悲鳴に、兵達は傍観を決め込むのであった。





戦いの最中に何を見る


 


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