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ピリオドの打ち方お教えします
*ED2





その書簡は、口にするにも憚られるような罵詈雑言で彩られていた。
レジスタンスの潜伏先を攻略した際、入手したものである。
シキはそれを楽しげに読んでいた。
それに比べてアキラの表情にはなんの感情も浮かんでいない。
弱者の戯れ言だと判ってはいるが、怒りを押さえつけるのは思いのほか骨が折れる。
一通り読み終えると、それを丁寧に畳んで蝋燭の火にかけた。
あっという間に燃え始めた手紙を、全く使用しない銀皿の中へ放り出して、シキは笑んだ。


「なかなかに面白い読み物だったがな」


小首を傾げる主の発言に、賛同する声はない。
そうなることは予期していたのだろう。
足を組み替えた彼は、笑みを深くした。


「虐殺をしたことも、…ああ、そういえば人の生き血を啜ったというのもあっている。…まさに死神、か」


喉を鳴らすシキは、おそらくアキラの反応を楽しんでいる。
今日の仕事は、昨日と打って変わってつまらないから、飽きたのだろう。
それがわかっているから、きっと彼の意にそぐわないであろう行動を、とる。
黙ったまま次の書類を手に取ったところ、シキは瞬間目を丸くしたものの、すぐ可笑しそうに表情を緩めた。


「随分と淡泊じゃないか」
「貴方の貴重な時間を、弱者の戯れ言に割くのが惜しいので」


わかっているくせに。
口には出さず、僅かながら視線を外した。
シキは、そんなアキラをしばし眺めていたかと思うと、傍らに立てかけてあった刀の柄を取って、急に立ち上がった。
さすがにアキラも驚きを隠せず、固まった。


「捕虜は生きているな」


少し考えてから、アキラは頷いた。
現在尋問を執り行われている最後の捕虜の情報がもたらされたのは、三十分前。
力加減の出来ない強化兵が、その段階で殆ど回答が出来なくなっていた捕虜を生かしているか、非常に怪しい。
とは言っても死亡連絡はないから、何らかの形で生きてはいる。
それをシキも判っているのだろう。
皮肉っぽい笑みを浮かべて、ゆったりと歩き出した。
仮に生きていたらその刀で処分し、死んでいたならそれはそれ。
書類の処分より少なくとも、遊べる要素を見出したのだろう。


「お戯れもいい加減になさって下さい」
「死神にも休みが必要だろう?…いや、これは死神の仕事に含まれるか」


聞かないと判っている諫言を紡ぐアキラを振り返ることなく、どこかつまらなさそうな声音が寄越された。
書簡に記されていた罵詈雑言の中で、気に入ったのか、何度か口にした言葉を交えたシキへ、アキラは素っ気なく返した。


「死神に休息など、あるはずがない」


シキはしばらく黙り込んだものの、鼻で笑い飛ばした。


尋問にあてがわれている地下室は、そう遠くはない。
何の連絡もなくやって来た総帥と側近に、守衛はかなり緊張しているらしかった。
震える指先が、重々しい扉をゆっくり開けていく。
同時に部屋から溢れ出した噎せ返るほどの血臭の中、死神は美しく微笑んだ。





ピリオドの打ち方お教えします


 


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