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I live for you,die for you.
*ED2





何かしら大切なことが起こるとき、よく雨が降る。
初めて人を殺したときも、拾われたときも、彼が変わったときも、そして今ここに至るまでの様々な分岐点でも、雨が降っていた。


そして今も、雨は力強く窓を叩き、止みそうもない。
部屋には雨音しか存在せず、集められた兵達の騒音も、此処までは届かない。
城の中枢に位置する執務室へ、もうすぐ到着する主を思い、ただ外を見ていた。
時間は、それなりに掛かった。
しかしもう、煩わしいものはいない。
彼は、彼にこそふさわしい地位と名誉と力を得、そして君臨する。
正しく、覇者として。
そしてその傍らに控えられるのは、自分。
つい弛緩する頬を引き締め、振り返るなり敬礼。
その先、彼はいた。
日興連のものと異なる黒い軍服は、彼のために作られたもの。
つい、息をのむ。
彼はきっと此方の腹の内など手に取るように判っているのだろう。
それはそれは美しく微笑み、近寄ってくる。


「何か面白いものでも見えるのか」


笑っていたろう?
喉元を撫でる指先は、手袋越しながら冷たい素手の感触を伝えてくる。
手袋越しであれ、彼の手は愛おしい。
浮かんだ笑みをそのままに、主を見た。
赤い瞳は、全てを見透かすような光を帯びていた。
元々隠し立てするものも、必要もない身としては心地良いばかりのそれも、他者には過ぎた力を発する。
美しい、赤。


「全てが貴方のものになったのだと思うと、嬉しくて」


彼は、喉を鳴らして笑った。
いまだかつて見たことがないほど、上機嫌だ。
そして自分自身、浮かれている。
今まで生きてきて、これほど嬉しかったことなど、なかったから。


「全く、お前は本当に愛らしい」


そっと離れた指先が、僅かばかり名残惜しい。
とはいえ、今それを強請るわけにはいかなかった。
もうすぐ式典が始まる。
犬はただ、主に従い、主が欲したとき、若しくは許したときに動けばいい。
今はそのときではない。


「総帥閣下」


今まで口に出せなかった、誰よりも彼にふさわしい呼称を口にした瞬間、走ったのは悪寒に似た悦楽だった。
それをひた隠し、そっと彼の右手をとって、膝を折る。
楽しげな声を降らせられる中、言った。


「今後とも、いついかなるときも、貴方の側においていただけますか」


彼は、なにも言わない。
ただこちらが掴んだ手を動かし、なぞるだけ。
ゆっくり顔を上げると、シキは当然のことだろうと笑い、返してきた。


「お前は、俺のものだ」


言葉はたやすく鎖となり、ただでさえ雁字搦めの思考と体を更に根深く拘束する。
それが甘美なものだと、教え込まれたこの身は、ただ愉悦する。

雨は姦しく降り続け、止む気配はない。
もう殆ど機能を果たさない頭は、それすら目の前の独裁者へ捧げられる喝采として、捉えた。





I live for you,die for you.


 

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