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接吻詐欺
*ED3





遠征先へ届けられた手紙は、それなりに美しい和紙の上、絶望的な字がのたくっていた。
これが果たして字なのかも判然としない。
ペンで書かれたらしいそれは、シキの用いる言語ではない。
しかし、かなりの努力を要するものの、平仮名に見えなくもない。
思わずため息が口をついた。
暇つぶしにしては、骨が折れそうだった。


まず文字数を把握しなければならない。
なのに、字と字が繋がっているのかどこで切れるか判らない。
挙げ句最後など紙からはみ出している。
自らペンを持ち、予想を立てては訂正し、そしてまた考えるを繰り返し。
恐らく5・6字だろうと、何とか結論をだしたときには、夜が明けていた。


2と3文字目は、同じ。
ぐしゃぐしゃに崩されてはいるが、さすがに同じ形が続けば判る。
しかし、だからといってそれが平仮名のなんなのか、そこが判らなければ意味がない。
手っ取り早く電話で聞き出せばいいのだ。
だが、それは負けを認めるようなもの。
遊びであれ負けは許されない。
そうなったら、ろくでもない願いを聞き入れねばならなくなるから。


きが、続いているのだろうか。
朧気に、そう理解すると、一文字目もおのずと理解できた。
最初は、シキ。
では後ろの文字は何か。
結局判らないまま、遠征は終了してしまった。



「判らなかったんだ」

珍しくおとなしく待っていたらしいアキラへ、つい苦情が漏れた。

「あれでは読めん」
「…丁寧に書いたんだけど」

アキラは少しむくれたものの、すぐさま笑顔に戻った。
珍しく賭けに勝てたからか、上機嫌だった。

「じゃあねぇ…明日の今まで、俺の言うこと聞いて」

従うしかなかろう。
腹をくくったらしく、苦々しく呻いたシキへ微笑み、彼は最初の願いを口にした。


「シキ、キスして」






接吻詐欺

 
 


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