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戯れ言悪戯悪巧み
*ED2





朝起きて、ベッドの上に身を起こし、そのままの格好でアキラは固まっていた。
昨晩揃えておいたはずの替えの軍服一式が、ない。
室内をくまなく探してみたのだが、やはりない。
見つけたのは、昨日身に纏っていた軍服。
しかしこれは、到底着られる状態ではなかった。
まさかシキが脱ぎ捨て、そのままになっているシャツだけ着て私室まで歩くわけには行かない。
しかし何故、軍服がないのか。
堂々巡りを繰り返す思考は空回りし、時間だけが執務開始時刻へ迫っていく。
起きたら軍服が紛失していたため秘書としての業務を放棄したなど、出来るはずもなく。
思考停止に陥りつつあるアキラの耳を、笑い声が打った。
いつの間にか、シキがドアにもたれ掛かりアキラを観察していた。
彼は一分の隙もなく軍服を着込んでいる。
対してアキラは、裸。


「酷い格好だが、悪くはない」
「茶化さないで下さい…!」


最早耳まで赤いアキラに満足したのか、シキは笑いを収めた。
そしておもむろに、隠し持っていた紙袋を、見せた。


「お前の探し物はこれだな?」


紙袋から出てきたのは、確かにアキラの軍服だった。
今から着替えれば時間通り執務を開始できる。
喜び勇んで立ち上がろうとしたアキラだったが、途中でその動きが止まった。
腰に走った鈍痛のせいもあるが、なにより。


「…何故貴方が、俺の軍服を?」


シキは答えない。
ただただ微笑みを浮かべて、その紙袋をまた背中へ隠した。


「返してほしいか」
「勿論です」
「お前は真面目だな」


そこで漸く、歩み寄ってきた主は、アキラへ紙袋を渡した。
なにやらもったいぶった仕草に嫌な予感を覚えながらも、ひとつひとつ取り出しては検分していく。
穴もなければ仕込みもない。
一安心し、袖に手を通して、アキラは再び固まった。
それと同時に、シキの笑みが深くなる。


「お前が好む匂いをしっかりつけておいた」


本当にしっかり、ついていた。
シキの匂いが。
シャツを羽織っただけでくらりとくるわ鼓動が乱れるわなのに、全て着たら果たしてどうなってしまうのか。
ろくなことにはならない。
絶対に。


「早く着替えろ。俺は先に行っているぞ」


シキは笑ったまま、動かないアキラを一瞥して踵を返した。
ややあってアキラの発した叫びを遮るように、無情にも寝室の扉は閉まった。




戯れ言悪戯悪巧み

 
 


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