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Hardship person
*虎穴ED





地面は驚くほど柔らかかった。
踏みしめた端から足場が陥没していく感覚に、未だに馴染めない。
崩れた体勢を立て直そうと、足に力を込めれば込めるほど、体は沈んでいく。


そのためアキラは、もう何回もバランスを崩し、転んでいた。
悪戦苦闘する彼を後目に、シキは真っ直ぐ歩いていく。
些細なことではあるが、自分と彼の違いをまざまざ見せつけられたようだった。
鈍る思考を振り払うかのように、白に支配された世界へ、息を吐く。
それもすぐさま白くなって、アキラの気分を益々暗くさせた。


シキの背中が遠い。
これ以上離されたら、見失ってしまう。
努めて早く歩こうとしたアキラは、次の瞬間固まってしまった。
シキが、よろめいた。
アキラの脳裏を過去の嫌な記憶がよぎる。
意識を手放す前も、こうだった。
あんなことはもう無いと判っている。
判っているのに、思わず情けない声で名を呼んでいた。


声に気がついたのか、シキがアキラをみた。
赤い瞳は強い光を帯びていた。
ほら、違う。
つい顔が綻び、足早にシキのそばへと近づいていく。
あともう少しで並べる位置まで来たときだった。
いきなり額を小突かれた。
これがなかなかに痛い。
シキは、何故か怒っていた。


「なんだよいきなり、」
「お前の所有者が誰か、もう一度刻みつける必要があるようだな」
「…なんだって?」


それだけ言うなり、彼は先程よりさらに早く悪路を進んでいく。
意味が分からない。
心配をしただけなのに。
アキラは理不尽なものを感じながら、遅れないようついていく。


双方の食い違いの元凶たる雪は、当分止みそうになかった。





Hardship person

 
 


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あきゅろす。
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