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置いてけぼりの高笑い
*ED2





城内は張り詰めた空気によって支配されていた。
行き交う兵は皆いつも以上に表情を固くして、無駄なく機械的に己の作業をこなしていく。
とは言っても、他国と交戦中であるとか、内乱中であるとかでこうなったわけではなかった。
この国の主の機嫌がすこぶる悪いのだ。


言葉にしてしまえば馬鹿げた理由である。しかし側に使える彼らにしてみれば、たまったものではない事態だった。
普段不敵な笑みを絶やさない総帥が、全くの無表情で宛もなく城内を闊歩していては。尚且つ、その手が刀の柄にかかっていては。
おかしな行動一つで文字通り首が飛びかねない。
この危機をどうのりきるか思案を巡らせつつ、彼らの脳裏には共通した願いがあった。
一刻も早い、親衛隊隊長の発見である。


シキは、彼なりの考えを持ち、城内を探索していた。
眠った彼に毛布を掛け、着替えの軍服まで持ってきたアキラが、出奔など有り得ない。ならばきっと城内の、それも自分の声の届かない場所にいる。
そう決めつけて探すこと数時間。
決して気が長い方ではないシキの、我慢の限界は近かった。
考えは自然と物騒になっていく。

見つけ次第必ず置き手紙又は伝言をするよう言わなければ。
その後はきつい躾だ。
ここ最近は生ぬるいものであったが、今回ばかりは容赦しない。

つい先程まで能面のようだったシキの顔に、表情が浮かんだ。なんとも邪悪な類の笑みであったが。
すれ違う兵達はその姿を見るなり殆ど逃げ出すようにして道を開ける。
兵の姿など視界に入っていないシキは、足音も高らかに、執務室から一番離れた位置にある部屋のドアを開けた。


「総帥…?」


アキラはいた。
シキの機嫌は、瞬間的に浮上した。
しかし間髪入れず、灸のため半裸姿だったアキラと、その体に触る医師のせいで、奈落の底まで落ち込むこととなる。





置いてけぼりの高笑い
 

 

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あきゅろす。
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