短
胃腸ではじけた毒素のはなし
*虎穴ED
後悔をするには、些か遅すぎた。
こうなったのも自分の責任であると、彼はよく判っていた。
限界を考えていなかった。
今のアキラにしてみれば、指一本動かすことさえ難儀なことであった。彼をつき動かすのは、ただただ、内蔵がせり上がるような苦しみと、目眩。
それだけである。
シキの表情は硬い。
彼らしからぬ、真剣な眼差しで先程からずっとレモンを絞っている。
対するアキラは無言。
シキは俯せのままぴくりとも動かない彼の体をひっくり返し、頬を叩いた。
「起きんか腑抜けが」
うっすら開いた目は、何秒かかけてなんとか焦点を結んだ。今朝方よりもまともにはなっているらしい。
「飲め」
呻き声が答えた。
ぎこちなく上体を起こし、一杯分のレモン水を飲み干した。一息ついたかと思うと、傍らに置いてあった袋に顔をつっこむ。
シキはもうなにもいう気にならず、かれこれ数時間繰り返されている光景を見詰めた。
「もう…楽に…、なった…」
寝台に倒れ込み、とてもそうは聞こえない声音で、アキラは呟いた。
シキには、二日酔いの経験がない。
少なくとも良い状態とは言えないと判断したらしい。
彼は、柔らかい手つきでアキラの目を覆った。
流石のアキラも驚いたようで、瞬間身を強ばらせたもののすぐ大きく息を吐いた。
これだけで安心出来てしまうなんて、我ながら単純というか。だいたいシキが、ここまで面倒を見てくれるなどアキラからしてみれば予想外だった。
迷惑をかけていると判っていても、嬉しくないわけがない。
「シキ」
「なんだ」
「…別に」
感謝は、体調が戻ってからにしよう。
うまく言えるかどうか、判らないけれど。
手の冷たさを心地よく思いながら、胃をせり上がる何かに耐えつつ、アキラはそう考えた。
胃腸ではじけた毒素のはなし
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