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苦し紛れの話
*とらあなED





せめてもの抵抗に物を投げ、後退り続けたものの、結局部屋の隅に追いつめられた。
すぐさまシキの手が、顔の直ぐ横に置かれた。
目は妙にぎらつき、先程から唇がつり上がりっぱなしである。
あまりにあからさまなそれらに、いくら場慣れしているとはいえ流石のアキラも引いていた。

ここのところ忙しく、塒は寝に帰るためにあるようなものだった。何かとシキからアプローチは有ったが、それを無視し続けてかれこれ十数日。

こうなるならば少しくらい相手をしていればよかった。

内心後悔しながらも、過ぎてしまったことは仕方がない。
まずシキをどうにかしなければと、視線を泳がせながらアキラは言った。


「俺はもう寝るからな」
「寝ていても構わんぞ。用があるのはお前の体だ」


あまりの言葉に、アキラは視線をきつくしながらシキを睨んだ。
睨んでから、大変後悔した。
シキは笑っていた。
それはもう、楽しそうに。


「睨むだけの気力があるなら問題なかろう」


アキラに反論させる暇すら与えず、シキは慣れた手つきで服を脱がしにかかる。このまま流されたら、誇張でも何でもなく意識を取り戻すのは明後日になるだろう。

直感で理解したアキラは、開いた胸元に顔を寄せていたシキの髪を引っ張り、殆ど叫ぶような声を上げた。


「体が汚れてるから風呂に行きたいんだ、判ったら離せ…!」


シキは弾かれたように顔を上げた。
衛生面のことまで気が回らなかったか。
アキラの口から安堵の息が漏れた。
なんとか風呂で時間を稼ぎ、タイミングを見計らって逃げ出す算段をする予定だった。
だが、シキ相手にアキラの考えなど通用するはずもない。


「…そうか。そこまで俺と風呂に入りたいというなら、叶えないわけにはいくまい」


アキラがその言葉を理解するより先に、体が浮いた。
あっさり担がれた彼は、そこで漸く言っている意味を理解した。
しかし、時すでに遅く。
体のバランスが悪い上、シキは一直線に浴室へ向かっている。
アキラは、無駄な抵抗を諦めた。
あと彼に出来るのは、精々目覚めるのが明後日にならないよう祈るくらいだった。





苦し紛れの話

 
 


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あきゅろす。
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