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違和感の正体
*虎穴ED




塒をこのアパートに変えてから始まった、度重なるいやがらせにアキラは心底辟易していた。
なにがそんなに気に食わないのか、ベランダで体を押してきたり、水の元栓を止めたり、この前などかなりの勢いをつけてドアを閉めるものだから危うく手を挟むところだった。
それだけでもアキラは苛立っているのだが、いやがらせの張本人たるシキはやっていないなどとしらを切る。
あまりに見え透いた嘘に、その日はかなりの喧嘩をしてしまった。
それ以降も結局いやがらせは終わらない。
いい加減なにか対策を立てねばと考えながら、気分転換に顔を洗っていたときだった。


「アキラ」


名を呼ばれて、顔を上げるとシキが立っていた。
最近、というよりもこのアパートに来てから、どうもシキに対する意識が鈍っているようで、背後に立たれても判らなくなってしまった。
今までなら有り得なかったことである。
どこか違和感を覚えながらも、ずっと側にいるのだから仕方ないと納得させた。
だからこそ嫌がらせを回避できないのか。

「…悪い、使うのか?」
「貴様判らんのか」

話が噛み合わないのは今に始まったことではないため、アキラはため息をついてとりあえずシキのそばへ歩み寄った。
何故か、なにもない空間ばかり睨み据える目を真っ直ぐ見つめ、尋ね返した。

「なにが」
「呆けるのも大概にしろ」

シキはそう吐き捨てるなり、寝室として利用しているリビングへ戻ってしまった。
意味が分からず立ち尽くしていたアキラは、軽く頭を振った。
シキが理解できないのは今に始まったことではない。
気にする必要はないだろう。
アキラは濡れたままだった顔を拭って、シキのいる部屋に向かった。
鏡に映る、無数の人影に気づくことなく。





違和感の正体

 
 


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あきゅろす。
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