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挨拶くらいしろ
*虎穴ED





窓を開けると広がっていたのは見事な青空だった。
ここ最近昼夜逆転の生活を送り、曇りも重なったため最後にこんな空を見たのは果たしていつだったか。
アキラは考えることを放棄して、腰に回ってきた腕を一回叩いた。

シキはすでに目を開けていた。
しかしそれほど朝を得意としないせいか、目を細めながらも心此処に有らずといった様子で、アキラを見ている。
彼は彼で新鮮な空気を目一杯吸い込み、再びベッドへ潜り込んだ。
初日こそ戸惑ったダブルベッドも、一週間で慣れてしまった。

ぐうだらめ、とシキに罵られ、しかしアキラは言い返す気力がない。ここ連日仕事詰めで心底疲れていた。

空はかなり明るい。しかし枕に顔を埋めて再び眠ろうとする。そんなアキラをじっくり観察していたシキは、微動だにしない頭をくしゃりと撫でた。
くぐもった声が聞こえたものの、抗議というわけでもないらしい。なんとなく気に入らなかったシキは、頭を撫でる手つきを乱暴にしてみた。
するとアキラは眠たげな目を細めて睨んでくる。眠らせろ、ということなのだが、お構いなしに動く指先は止まるどころか、ますます悪戯を仕掛けてくる。

アキラが耐えきれなくなるのに、時間はかからなかった。
手首を掴んでねじ上げようと試みた。
掴むまでは出来たものの、そこから先が動かない。
シキはそれを見るなり唇をつり上げ使っていなかった左手を伸ばしてきた。
掴まれた肩が嫌な音を立てて軋み、逃れるためアキラは足を使った。
腹に確かに入ったのに、相変わらずシキは笑い続ける。その笑みの中に潜む嫌なものに気づくのが、遅すぎた。

気がつけばアキラは右手をベッドに縫いつけられ、左肩を押されてシキに覆い被されていた。
アキラの口からはもうため息しかでなかった。
眠気はどこかへ行ってしまった。
こんな光を受けながら寝る気分でもないし、何より依然として彼に乗っかっているシキが許すはずもない。
ただどうしても、このままずるずるシキに引きずられるのは避けたい。
そこでアキラは、近づいてくるシキの顔を両手で止めて言った。





挨拶くらいしろ

 
 


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あきゅろす。
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