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炎天下に響く
*とらあなED




地面が揺らいでいる。
確か、陽炎といっただろうか。
そんなものがはっきり見える。
それ程暑いのだろう。
嫌になるほど暑い。
日陰に行っても水を浴びても


「なんだその面は」


力なく椅子に腰掛け、目も虚ろなアキラは声に反応して顔を上げた。
向かいの席、シキはいつもの涼しい顔をして出てきた料理を平らげたところだった。店員が皿を持ってきて、まだ5分と経っていないのに。

「…アンタ」

言いかけたことをアキラは飲み込んだ。
シキが人間離れしているのは何も今に始まったことではない。
言葉を紡ぐ気力すら失せて、とりあえず水の入ったコップへ手を伸ばし。しかしその手は、コップに触れられず、シキに払いのけられた。
何事かと目を見開くアキラへ、シキは微笑んだ。それは酷く綺麗で、不吉な笑みだった。

「…なんだよ」

警戒心剥き出しにアキラが尋ねた。
するとシキは、おもむろにもう一つ運ばれていた皿を、アキラの方へ押しやった。
鳥の手羽先だろうか、大きい。満遍なくまぶされた赤は、恐らく香辛料。
アキラとしては、なるべく遠慮したい食べ物だった。
だが、多分目の前の男が言うことなどひとつだろう。あきらめ半分で言葉を待つ彼に、案の定シキは言い放った。

「食べろ」
「嫌だ」
「俺に食べさせて欲しいのか?」

シキは笑っていた。しかし目が据わっている。
間違いなく本気だ。
人通りの多い屋台街だからしないなんて、この男に限ってそんなことあるはずがない。
仕方なく、ぎこちない動作で、アキラは鶏肉を掴み口へ運んだ。
すぐさま噎せた。
味などわからなかった。たった一口なのに、汗が止まらない。咳も止まらない。
そんなアキラへ、シキはコップを差し出した。
彼はそれを急いで飲み干し、尚も小さく咳き込んで、漸く収まったようだった。
文句の一つや二つ言いたいのだが、叶いそうもない。
荒い息のまま、ひたすら睨んでくるアキラの赤くなった目元を指先でなぞり、シキは再び笑った。


「まだあるだろう?」


アキラの怒声が、戦慄く唇から発せられるまで、時間はかからなかった。





炎天下に響く





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