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ワーカーホリック
*ED2




地下深く、光など届かない最下層にその部屋はあった。
重々しい扉に遮られていても陰鬱な気配を隠しきれるものではない。切れ目なく聞こえるすすり泣きとも呪詛ともとれる声と、時折木霊する絶叫は、その部屋が何のために存在するかを如実に表していた。
そんな部屋の扉をやや乱暴に開けて、出てきたのはアキラだった。彼は億劫そうな動作で石段に腰掛け、俯く。

尋問も、大分慣れた。
空気が余りに澱んでいて、辟易してしまうけれど。
なにしろ出来るようにしておけと、主直々の命令である。気分転換へ回す時間が惜しい。早く修得して、帰らなければ。

気持ちばかりが先走って、体と精神がついていかない状態を、アキラは無視した。ふらりと立ち上がり、部屋へ戻ろうとしたときだった。
備え付けの電話が鳴った。
新しい捕虜を輸送してくるのか。そう思ったアキラは受話器をとり、


「お前は少し限度というものを知ったらどうだ?」


滑り込んできた低い声に、息を呑んだ。
限度とは、時間のことか。
遅かっただろうか。
不安に駆られ、巧く言葉が紡げない。回らない舌を無理矢理動かして、小さく謝罪した。そんな彼の状態を見透かしたのか、シキは喉を鳴らして笑った。


「俺に顔を見せろ。あと30分で来い」


勿論汚れを落としてからだ。
シキからもたらされた言葉はアキラの想像の範疇を凌駕していた。ただなんとなく、躾られるのだろうと考えた。
微かに上擦った鼓動を落ち着かせ、やむなくアキラは石段を登り始めた。
捕虜はどうせもう使いものにならないから、あのまま処理させればいい。それにしても、顔を見せろとはどういう訳か。
普段のシキならば、躾なら躾と直接的に言うだろう。
アキラは眉根を寄せたまま、石段の果てにある扉を開けた。それと時を同じく入ってきた新鮮な空気に、思わず息を吐く。

時間をすっかり失念していた。
もう夕方か。

アキラは立ち尽くしたまま、暫く空を見た。
捕虜の流す血より更に赤い、シキの目と似通った赤い太陽が沈みかけていた。





ワーカーホリック





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