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うさぎ様へ
*終焉ミッドナイト様(管理人・うさぎ様)との相互文
*うさぎ様のみお持ち帰り下さい





寒さというものはそう紛らわすものではないと判ってはいたけれども、アキラは冷え切った酒を流し込んでいく。
公園のベンチに腰掛け雪かきの風景を見ていても、身体は温まらない。
ただ胃に納まった酒が、なんとなくぬくいかな、と思える程度だ。
いくら着込んでいても足先から体温を奪われていっては堪らない。
しかし彼には、雪のまだ積もっているベンチから退く意思はなかった。



雪が降ればいいなどと寝る前に言った所為で、今日は一面の銀世界である。
何もここまで降ればいいと思ったわけではなかったのだが、言い訳をしたところであまりに遅い。
今にも雪の重みで倒壊しそうな塒から飛び出して、とりあえずここまで来た。
この街からまだ離れるわけには行かなかった。
仕事は明後日である。
だから今日だけホテルに行くことになるだろう。
アキラは眠れれば何処でもいい性質だから、全て相棒に任せきりにして、こうして朝から公園のベンチで酒を飲んでいる。
その相棒も、気がつけばアキラの腰掛けているベンチの背後で酒を呷っている。
彼は酒に強いから、琥珀色の液体を水のように流し込んでいた。
悔しいけれども、アキラにはとても真似できることではなかった。
大人しく、渡された酒をどんどん流す。
この寒いのに何が悲しくてビールを飲まなければならないのか。
恨めしげに背後に立つ男を仰ぎ見ても、彼は普段どおり嫌な笑いを浮かべているだけだった。



「飲むか」



差し出されたガラスの瓶に詰められたそれは、容易くアキラの頭の中を狂わせていく。
思えばピアスをあけた際に浴びせられた液体も、この類のものだった。
これまでこれのせいで経験してきた苦い思い出を反芻しかけてやめた。
思い出すとキリがない。



「アンタが飲めばいいだろ」
「鍛えれば飲めるやも知れんぞ」



彼は何が楽しいのか暫し笑い、やがてアキラの頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
そしてアキラに酒瓶を預けたまま、ふらりとどこかへ行ってしまった。
アキラはそれを止めようとは全く思わなかった。
もともと気まぐれな性格で、気がついたら消えているし、気が付いたらそばに居る。
束縛したところで容易く逃げられてしまうなら、無駄な労力だ。
相変わらず、遅々として進まない雪掻きへ視線を戻す。これだけの大雪だ。
雪に慣れているようであったこの街の住民も流石に面食らったのだろう。
転倒者は先程から増え続けているし、寒さに震える人間も珍しくはない。
その中には勿論アキラも含まれていた。
ここから離れて、あの店にでも逃げ込めばいいのだろうに、妙な所で心配性だった。
ここにさえいれば、シキは必ず戻ってくる。
己の性分に嘆息すら漏らしながら、アキラは空になった空き缶を放り出した。
持っていることすら億劫だった。
手元に残されたのはガラス瓶。
忌々しい液体を少し揺らす。
音だけは軽やかである。
鍛えれば飲める、とシキは言っていたけれど、その見込みはない。
アキラは独り笑い、酒瓶に口をつけ、シキがするように呷った。
案の定噎せた。
どういう神経をしているのか確認したくなるような、アルコールの匂いと酒そのものの味が広がる一方、喉から胃まで一直線に熱が走る。
美味くもなんともない。
それでも身体だけはしっかり温まる。
彼は口元を拭い、酒瓶をベンチの空いたスペースに置いた。



気に入っているだけあって、味までシキに似ている。



彼は無意識のうちに顔を顰めていた。
そして無性に、シキの顔を見たくなった。









ひとこいし





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あきゅろす。
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