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もとみ様へおくりもの



己が血を受けたものは、人の皮を被った死神であるには違いない。
分け隔てなく、平等に命を刈り取っていく姿は、刈られる側からすれば恐怖以外の何者でもないだろう。
彼らは皆黒い服を着て、刃を携え、人外の動きをする。
戦場で、彼らが通った後には何も残らない。
まだ本格的な実戦投入には遠く、局所にしか配置出来ないが、戦績は充分だ。
思い描くそう遠くない未来、彼らはこの国を、やがて世界を埋め尽くす。
生も死も、作られた死神が支配する。

では、彼らを生み出した己はなにか。
死を振り撒くだけの己は覇王にはなれず。
魔王でもない。
死神と称するわけにはいくまい。


「ならば、貴方は冥府の王だ」


傍らの男は笑った。
なんの感情も見受けられない目とは反対に、唇は裂けるように広がった。


「私はその道化、といったところでしょう」


踊り狂って死ねるならば本望。
この男は、もはや殆ど精神の均衡を保てていない。
狂気にすがって狂気を保つ。
それが故意か無意識かはわからないが、恐らく本望は果たされる。
最期まで道化は歌い踊り、やがて来るであろう輝かしい光に死神は駆逐され、冥王は討たれる。
それは遥か以前から決まっていることであり、この国を作った理由でもある。


「それも、悪くない」


ああしかし、果たして。
意図して王となり、国と心中する己は本当に王なのか。
本当はわかっていた。
己は、いつかのあの瞬間、王ですらなくなってしまっている。
舞台で踊る道化と変わらない。
恐らく違いは、壮大な喜劇の中で、膨大な死を振り撒くこと。


「到着いたしました」


戦場は近い。
哀れな道化を待つ舞台は、全て整っていた。







 
 



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