贈
もとみ様へおくりもの
歪んだ笑みだと、シキは思った。
路地裏の限られた光源の下、彼とほぼ同じ格好をした男は、無駄なく此方の動きを観察しながら、足元の物言わぬ骸を蹴った。
確か名前はアキラ。
行く先々でシキの情報を聞き出し、追跡しながら接触を持ったものを手当たり次第に殺す。
内包した憎しみをぶつけるように。
「みつけた」
刀が、鞘から引き抜かれる。
鈍い光を反射する刀身に写るのは、シキ。
「懲りん男だ」
こうして刃を交えるのは、一度や二度ではない。
殺しそびれたわけではなく、ただ、生かせば生かすほど男は手段を講じなくなり、いつの間にかそれを心待ちにしている自分がいた。
「誘ったのはアンタだろ」
「乗ってきたのは誰だ?貴様ではないか」
歯を剥き出しにして笑う男が動いた。
倣うように、シキも一歩踏み込む。
降りかかってきた刃を刃でもって受け止めた。
甲高い音を立て、ぶつかった力に、シキの笑みは深くなる。
それは向こうも同じらしく、ただでさえ歪んでいた笑顔が、狂喜すら帯びてきた。
言葉はなく、ただ刀のかち合う音が響くだけの路地裏が、その瞬間の彼らにしてみれば、至高の場所だった。
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