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挿話(みつめてナイトのSS)
第19.5章 〜邂逅の夜…?〜

『今年は独り……か』
小さく呟いた。思えばずっと叔父上や参謀長、
ライズと共に過ごせていたが今年はそうはいかない。
潜伏している身である以上当然ではある。
「どうしたんだい。お目当てのクレアさんがいないからしょぼりかい?」
マスターが新しいグラスを用意してくれた。
当然、中身は天然水だ。俺に酒を出さないのはもうお約束になってきている。
『ハハ、まぁそう言う事にしといてください』
笑って返し、軽く喉を潤す。ふぅ、と一息つく。
どうも今日はクレアさんは非番だったようだ。
シルベスター会場に行っているのだろうか。
それとも家でのんびり過ごしているのだろうか。
俺はというと、会場に行こうとする相棒についていこうとしたら、
「一人で行くわ。心配しないで、大丈夫だから」
――――などと我侭を言うし。
全く、妹を気遣う兄の気持ちがわかっていない。
だが、おそらく時計台周辺はかなりの人口密度だろう。
そんな状況で相棒にテを出す輩がいるとは思えず、しぶしぶ見送ったが。
「君は会場にはいかないのかい?」
もてあまし気味なのか、グラスを拭きながら聞いてくる。
『ええ。新年を迎えるのは、別に時計台に限らずどこででもできるでしょう。
 なら騒々しい所でではなく、落ちついた場所で静かに迎えたいものです』
「なるほどねぇ。普段の君は控えめなんだね。
 クレアさんといる時とはなんだか別人のようだ」
何が楽しいのか、笑いながら語りかけてくるマスター。
「でも、彼女にもたまには控えめに接してあげてくれないかな。
 ハイテンションな君もアジがあって良いけど。
 今のクールな君も十分釣り合う、って思うけどな」
『それは忠告ですか?』
「いやいや。深い意味はなくて、そう思うってだけだよ。
 常に明るく振舞って彼女を元気付けようとするのは良い。
 でもね、たまには静かに傍にいてやるってのも良いんじゃないかな?」
『……良くご存知で』
マスター、なかなか出来るな。素直にそう思った。
丁度水も空になった。静かに傍に、か。
『勘定をお願いします』
「ありゃ、今日は水だけでいいのかい?ミロもすぐ用意出来るけど」
『いえ、このへんで失礼させていもらいますよ。それで、勘定を――――』
「僕の奢りって事で良いよ。と言っても水だけどさ。
 少しだけど楽しい話ができたからって事で」
『いえ、そう言うわけには……』
いかに水とは言え、ちゃんとそれなりの代金は払うべきだろう。
「いいからいいから。人の好意は素直に受け取っておくべきだよ」
聞く耳持たず。ここは従っておく事にした。
『すみません、ご馳走様でした』
軽く頭を下げる。マスターはチラリと時刻を確認した。
「多分、家じゃなくて時計台周辺にいるよ」
『え……?』
「行くんだろ?人込みが凄そうだけど、君ならすぐ見つけるはずさ」
『……ありがとうございます』
再度頭を下げ、酒場を後にした。
「いいねぇ。青春だねぇ〜」
終始変わらずのニコニコ顔のまま、マスターは作業を続けた。



――――予想通り、会場は人、人、人、人だった。
この時計台を囲んでいる人込みの中から一人を捜すのか。
『いきなり気が重くなってきたな……』
いくらなんでも無理だろう。捜しまわっているうちに、
カウントダウンがきて時間切れ、がオチに決まってる。
と、半ば諦めかけていたのだが。
「あら、エミリオ君も来ていたのね」
すぐ見つけるはず、ですか。
見つけるどころか、見つけられてしまったよ、マスター。
『ここで会えたのも何かの縁。ご一緒してもよろしいでしょうか?』
「ええ。カウントダウンをしましょうか」
じきに頃合だ。何か合図されたわけでもなく、誰もが時計台を見上げる。
「来年はどんな年になるかしら」
見上げたままクレアさんは呟く。
『確実に言えるのはいい年であると言う事ですよ』
「あら、断言するの?」
『当然でしょう。ついでに言えばいい年に{する}んです、自分のテで。
 何事も行動しないと結果は得られませんから』
「……前向きなのね、貴方は。あ、カウントダウンが始まるみたい」
周りが騒ぎ出す。それにあわせてか、クレアさんも10、9、8〜
と数え始めている。途中、クレアさんは何か祈っているように見えた。
ゼロ、の声と共に花火が上がった。さらに周囲が騒ぎ出す。
クレアさんはこちらに向き直ると
「一人で新年を迎えるのね。って思っていたけれど、
 そうはならなかった。ありがとう、エミリオ君」
そう言って軽く頭を下げてくる。
これは、自惚れても良いのだろうか。
『恐縮です。私なぞが貴方様のお役に立てたならば身に余る光栄でございます』
「それで、このまま終わりにするのも味気ないから、ウチの店に寄っていかない?」
『は?酒場でございますか?』
聞き間違いかと思った。
クレアさんの方から誘いをかけてくるなど、天変地異の前触れか。
ラストダンスで良い印象を持たせた結果なのか。
「今夜は少し飲んでみようかなって気になったのだけれど……。
 そうよね。若いエミリオ君はこんなオバサンとじゃ……」
『い、いいえっ!このエミリオ、貴方様の気が済むまでお付き合いさせて頂きます
!』
「ちょっと大袈裟だけど、ありがとう。じゃ、早速行きましょう。
 何せ何事も行動しないと結果は得られない、でしょう?」
『はい。その通りでございます』


――――その後、クレアさんを伴って酒場に入ってきた俺を見たマスターは
してやったり顔で笑うのだった。
このマスター、もしかして何もかもお見通しだったのだろうか……?






 冗談で、「シルベスターにエミリオ出さなかったから、書いてくれる物だとばっかり思ってました。」って書いたら、すぐに書いてきてくれました(^^)
 今回のエミリオ・・・カッコイイ!!(^^)/
バー「ミート」のマスターも味があって良いです(^^)って言うよりも、マスターの方が『くせ者』っぽいです(^^;
 クレアさんとの急接近で、これからの展開も気になりますが、エミリオさんは忙しい方なので不定期連載あっ、・・・私もか(苦笑)
次はいつになるか楽しみです〜〜〜(^^)
(紹介文 山懸有朋)







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