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side→翔
□
「…サンキュ」
「別にいい」
クリームシチューを乗せたスプーンをふうふう、と冷ましながら、
スプーンを向けてくる
猫舌な事をよく知っている片割れが、
その全然似ていない顔を此方に寄せ、
此方にゆっくり、寄ってくる
□
時は半日前に遡る。
「なんか、違う」
「…具体的にどこが」
バンドの合わせの時だった。曲も歌詞も完成してのカケルのその言葉に、俺は薄々気付いていたにもかかわらずそう返した。
桜井翔(サクライカケル)
俺の2つ年上の高3で“Shady path”のギター担当。
作曲はこいつがする事が多い。…が、たまに作詞もする。超自己チューで俺サマでエグくてグロくてエロ。そんでもって俺の夜の先輩(?)だったり。
一通り合わせた後、カケルがそう言う。
確かに驚いた、通常なら今更ありえない、その言葉に。でもカケルを怒鳴らずに一時の合間をおいて案外冷静にそう問い掛けた俺。分かっていたんだ。
…俺もカケルと同じようにどこかが違うと感じていたんだ。
「具体的にって……分かンね、何か違うんだ」
「………」
「ショウも何と無くは気付いてるだろ?どっか微妙に違うこの違和感ってか、兎に角何かに」
俺が黙っていたらカケルはそう一気に捲くし立てるようにそう言って、“あ゛ーーー”とか言葉になってない声を上げながら頭を掻きだした。
ああ、確かに俺だってそう思ってるさ。でも分かんなくて、だからカケルなら分かってんのかなって。でも分かってないって。
…ああこんな事今までなかったのに。
「…この頃倦怠期入ってる感じ?」
取り敢えず思い浮かんだ事を言ってみる。他にも“マンネリ化”とか“マリッジブルー”とか“マグロ状態”とかいっぱい浮かんでくる。何気に関係ないとか思うけど何かそんな感じだよな、カケルと俺って。
「って、それじゃまるで俺ら恋人みたいじゃん!!」
「はァ?」
いやいや俺は断じて“ドウセイアイ”とやらは理解出来なくてってかそんな考え今思い浮かんだ俺はどうな訳?どうな訳?きもくない?ヤバくない?俺ってば何時の間にそんなのに染まっちゃったんだよねえ誰かこの状況を止めて下さ「おい、」
なんか色んな意味で凹んでいた俺はその声ではっとする。うおっ、俺、なんて事考えてたんだ!気ィしっかり持たないと即ゲロりそうだって!!
「何一人で言ってンの?ってかショウ、ウケ狙ってるワケ?マジ空気読めよおい、」
「は?んな分けないんですけど!俺マジ真面目なんですけど!」
「だったら百面相とか止めろよ。突っ込んで欲しいのかと思った。……取り敢えず分かるまで合わせようぜ?」
お前が突っ込んで欲しいとか言うと違う方向に聞こえるから止めて欲しい、…と言おうとした俺にまた凹む。嗚呼、真面目に男子高校とか通わなきゃ良かった。
思えばこの高校を選んだのもカケルが居るってのと俺の兄になる海…って、まあ双子だからあんま関係ないんだけど…兎に角、海がこの男子校を受けるって言ったからだ。
カケルの所為で俺はこんな目に…!!
高校を選んだのは9:1くらいで海とカケルになるんだけどそんなの棚に置いて、ってか放り投げる勢いでカケルを恨む。眼力で伝わるかななんて思ったりしながらカケルを見る。でも生憎俺はエスパー持ちではない。
…ただ人よりちょっと顔が良いだけのイケメンだからな。
カケルは“たりぃ…”そう言った後、ギター片手に俺を見てにやりと笑う。俺のエスパー(といっても超能力者でもないが)は微妙にズレた方向で通じたらしい。
ってかズレた方向が大きいとか思ったけどそれって結局俺のエスパー能力は皆無だったって事だよな?
「…げ」
ライヴではファンの悲鳴モノなそれにも今の俺ではその表現以外の何者でもなくて。
“何だよ?文句あっか。”そう言った、有無を言わせないようなカケルに、“…気が済むまで相手になれば良いんだろ?”そう返した俺。
ぶっちゃけ拒否権ゼロのそれに溜息しかでなくて、結局学校が閉まるまで(警備員のオッサンが音楽室まで乗り込んできた)、その合わせは続いた。
でも相手になればいンだろ、なんて強気にそう吐いた俺だって内心は不安だった。それは多分、カケルも一緒だったのかもしれない。
“…ああこんな事今までなかったのに。”
これは嫌な予感がするんだ。
俺は、俺とカケルは、
……いや、“Shady path”は。
このまま続かないかもしれない、なんて。
ない、よ、な……?
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