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風のフアレク



時を同じくしてその砦の中では、松明の薄明かりに照らされた大部屋の中で、十余人の役人の男達が長卓を囲んでいた。

「……で、やつらは吐いたのか」

その長卓の奥の座に腰掛けている、最も地位高いと思われる、白い口髭を蓄えた初老の男が、左右の列に並んで腰掛けている部下の一人にそう尋ねる。

「ええ、あれから大方のことは把握できました。全く、呆れたものです。あのラクダに積んであった大量の荷物、ほとんどが盗品なんだそうですよ。それで……」

しかし、そうして部下がかしこまった口調で、延々と言葉を続けている最中に、突如として大扉をノックする鈍い音が響く。一同はその刹那部屋の入り口の方を振り返り、期せずしてその場が一旦静まり返ることとなる。

「何用か」

にわかに起きた沈黙を突き破って、初老の役人長が張り上げた声に、扉の向こう側から返ってきたのは、落ち着き払った若い女の声だった。

「重要な報告があって参りました。今すぐ入室の許可を願いたい」

「……入れ」

彼らの話を遮って部屋に入る格好となった女は、長卓を囲む男達の視線を一身に受けることになるが、やがてすぐに彼らのそれは、彼女の後ろにいる一人の得体の知れない人物へと移っていた。

女は、自らが先刻捕らえた曲者のその男を、両の手首に手鎖をかけたまま、彼らの前に突き出して言う。

「今し方、門の外でこの者を捕らえました。
この者は、城郭の見張り三名を斬り殺した上に、この建物の中に忍び込もうとしていた。
なんでも、今牢屋に入っているあの盗人共の仲間なんだそうです」

すると、話を受けた老役人長は、口の端にとってつけたような笑みを浮かべて、彼女に対して表向きに乾いた賞賛の言葉を並べる。

「そうかよくやった。見事な手柄であったものだ。然るべき報酬は後日に与えよう。今は……」

しかし、女はその男の言葉を遮って、鋭く撥ね付ける。

「そんなものはいらない! ただ、一つだけ聞き届けて欲しいことがある……」

それから彼女は自らの本意を紡いでいくが、その中途にも、声が打ち震えるような響きを含み、目には激しい怒りの炎が宿りながら、それをできる限り押し殺して、平静を保とうとしている様子が、明らかにうかがえるのだった。

「もし、私の父を殺した者の正体がわかったら、それを誰より先に私に教えて欲しいのです」

しかし、それをもってもなお、その地位の高さと相応に、横柄な態度が見え隠れする老獪な役人長は、彼女に対して至極辛辣ともとれるあしらいを見せるのだった。

「ああ、わかった。全てそなたの望むままにしよう。今は下がれ!」

穏やかさを装った中にも、有無を言わせぬ決然とした厳しさのこもったその口調に、女もようやく納得したように頷くと、青年を役人の男の一人に引渡し、踵を返して部屋を出て行く。

青年はその男に手を引かれていくことになるが、老役人長は自らの前を通り過ぎて、奥の通路へと向かう部下の方を、とりたてて見やることもせずに、ただすれ違いざまに一言、命令を下すのみだった。

「そいつを牢にぶちこんでおけ」

この冷酷な暴力の巣にあって、翼を奪われた大鳥に待ち受けるものは死か、あるいは死よりも残酷な運命なのだろうか。

(拷問にかけられた揚句に、首刎ねられるのが関の山かな)

さすがに恐れることとは無縁のこの青年も、このときばかりは、体の奥底にある生気の塊が、急速に萎えしぼんでいくのを感じていた。

       

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