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風のフアレク
1−2


木と木がぶつかり合う鈍い音、軽快な動きから手数の多いオンクーと、慎重にそれを見極めて防ぎ、荒削りながらも力強い一撃で応じるヤンシェン。

それぞれに趣の違う二人の少年の木刀さばきは、その筋の良さだけなら、十分に鍛えられた熟練の兵士にも、決してひけをとらない程のものだった。

やがて稽古を終えた二人の少年は、多量の汗をたたえたまま木刀を投げ捨てて、河原の石の上に仰向いて寝転がっていた。

「なあ、オンクーよ。いよいよ明日なんだよな……。新兵徴発のお声がかかってから、俺達もこうして毎日鍛えてるけどなあ、実戦の殺し合いってのは一体全体どういう感じなんだろうねえ」

ヤンシェンが途切れ途切れに息を切りながら、ふとオンクーにつぶやきかける。

「いくら剣が強くなったって、後ろから来た矢が体にぶっささったら、そらあ嫌でもくたばっちまうわな」

「……そうかもな」

「まあ、どのみち俺なんざ上等に思われる首でもなかろうが、野良犬みてえに意味もなくのたれ死ぬのはごめんだな。雑兵には雑兵の意地ってもんがある」

「俺は……きっとくたばる時があったとしても、やるべきことを終えるまでは、くたばらずに済むもんだと思ってるよ」

「……そう思うか、まあ、そう思った方が気休め程度にはなるのかもな」

ヤンシェンの口調には、オンクーの覚悟を少しばかりせせら笑うような響きが含まれていた。空を流れる雲を眺めながら、ヤンシェンはオンクーを試すようにぶっきらぼうに吐き捨てていた。

「何かお前にはそう言いきれるような、上等な理由でもあるっていうのか?」

「……」

しかし、振り向きもせず空ばかりを眺めるオンクーの目の奥は、濁りなく透き通っている。それを見たヤンシェンは今し方の自分の発言を、少しばかり決まりが悪そうに振り返ると、思い出したように付け足すのだった。

「まあ、なんだ。それなら俺もそういうことを、今一度考えてみようかな……」





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あきゅろす。
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