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風のフアレク



とある渓谷の中流域に、桶を片手に洗濯をしに来たとある一人の中年の女が、今日も暖かい日の出と共に、日々の営みを始めようとしている。

服の洗濯を一通り終えた彼女は、ひとまず川沿いの集落に引き返そうとしていた。

だが、その時、流木のような塊が、川の上流から流れてくるのが、彼女の目の隅に入る。

(何だろう。あれは……)

彼女が目を凝らすと、それはどうやら流木の塊などではないことがわかる。

(獣の死骸かしら……いやそれとも……)

ちょうど、自分の方の川岸に打ち寄せられてきたそれを、助け起こして河原の石の上へと乗せる。

(若い母親と、赤子……)

彼女は、母親と思しき若い女の口元に、すぐさま耳を押し当てる。すると、わずかながらに、生暖かく湿った風の流れを感じ取ることができる。

(まだ息がある……!)

その女はそうすると、もうにわかに気が動転して、離れにある自分の家に向かって大声で叫ぶのだった。

「ねえ、あなた。ちょっときてちょうだいよ!」



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