短編
彼女と僕ら
私、梁瀬碧には三人の幼なじみがいる。
私の家の両隣と真っ正面に住む男の子たちで、全員同じ歳。もの心ついた頃から一緒なので、早いもので今年で十五年来の付き合いになる。
そんな年の冬の終わり……。
「―――ま、とりあえず無事受験終了おめでとー!特に雄太ーっ!」
「何だと和臣!似たような成績のお前だけには言われたくねぇっての!なぁ、浩介」
「俺に振られても………強いて言うなら、和臣の最後の追い上げは凄かったね。人間、死に物狂いなら何でもできるって身に染みて学んだよ」
「………浩介。一応にも褒めてんのか?それでも」
「たぶん。だから高校受験成功おめでとー」
「くっ……そのやる気のない余裕がムカつく!」
「だが言い返せない……!」
「―――ねぇ」
たまり兼ねて口を開いた私に、三人の視線が一斉に集まる。
私から見て右から順に、木之下雄太、速水浩介、相沢和臣。
三人も三人して、『どうした?』と言わんばかりにキョトンとしてくれている。
……………どうしたもこうしたもないんですけど。
というか、何故私の部屋に集まる。普段は和臣とかの部屋なのに………。
「ん?何だよ碧、全然飲んでもなけりゃ食ってもねぇじゃん」
「あ、ホントだ。せっかく俺らが買ってきたんだから遠慮しないで食えって」
そう言って、お皿に乗ったチキンとポテトが目の前に差し出される。
反射的に受け取ってから、三人に見つからないようにため息をつく。
別にチキンやら飲み物やらを催促したつもりはなかったんだけど……。
が、隠したつもりのため息は目ざとく見つけられた。
いつもの様に人のベッドを勝手に占領している浩介が、ニヤリと笑う。
「大丈夫だよ、碧。今食べたって体重に影響するもんでもないし。むしろ、もう少し肉がついた方が抱き心地いいと思う」
「ちょっ、抱き心地って何!?」
思わず腕を抱いて後ずさる。
い、いきなり何を言い出すんでしょうか、この人はっ!?
「………浩介く〜ん?」
「何?」
雄太と和臣が半眼になって睨み付けても、浩介はやけに平然としていた。
「何って、お前なぁ」
「別に嘘は言ってないし……それに、どうせ二人もそう思っ、ふがっ!」
「へ?」
『いや、何でもないからっ!!』
和臣と雄太は打ち合わせしたかのような息の合った連携プレーで浩介の口を塞いだ揚句、最後にはセリフがはもっていた。
口を強制的に塞がれた浩介は迷惑そうにはしているが、してやったりといった表情をしている。
ところで、浩介は何て言おうとしたんだろう?
一人首を傾げていると、三人は顔を見合わせてゴニョゴニョと小声で話し始めた。時々、浩介が頭を叩かれている。
最近、こんな風に三人だけで内緒話をしている事が多い気がする。
まぁ、幼なじみの中で一人だけ性別違うからしょうがないと思う反面、やっぱりどこか寂しく感じてしまう。拗ねたくなる気持ちぐらい少しは許して欲しい。
「ふぅ………って碧さん?」
「何、どうした?」
一息ついたらしい雄太と和臣が、ぎょっとした表情になる。
いかん、いかん。不満が思いっきり顔に出てしまった。
「へ?あ、何でもない!それにしても、皆同じ高校に行けるとは思わなかったよね」
急いで話題を変えると、浩介がねっころがりながら「なんで?」と聞いてきた。
「和臣と雄太は成績足りないかと思ったし、浩介はまた上の学校に行くと思ってたから」
『…………………………』
三人は顔を見合わせて黙り込む。
このたび私たちが無事合格を果たした高校は、上の下ぐらいの学校。
私と万年成績優秀者の浩介はわかるけど、和臣と雄太は自分たちで言うくらい奇跡的な合格を果たした。
浩介も浩介で、『もっと上を狙えるのに!』と学校側から散々説得されたらしい。
昔から四人一緒に行動する事も少なくなかったけど、何も高校まで揃えなくてもいいのに……。
そう思っていると、和臣が不満そうにため息をついた。
「あのなぁ、俺らと同じ高校行くのがそんなに嫌か?」
「まさか。嬉しいよ?」
素直に言ったら、次は三人仲良く固まった。
何なんだろう、一体?
「え、あー……なんだ。それはよかった。頑張った甲斐があった」
「ま、俺の真の実力を発揮すれば不可能はないってな!」
「雄太、留年って言葉知ってる?」
「えぇぃっ、黙れ浩介!!」
浩介が雄太にどつかれる。
結構いい音したけど、平気かな?
どつかれた浩介は、恨みがましそうに雄太を睨み付けながらどつかれた部分をさすっている。やっぱり痛かったみたい。
皆でひとしきり笑った後、和臣から不穏なセリフが聞こえてきた。
「さて、気も早いが何時に家出るか決めとかね?」
「んぁ?そりゃ、今まで通り表に全員集合だろ」
「いや、だから時間をだな―――」
……………ん?全員集合?
嫌な予感を覚えた私をまるっきり無視して、三人はああだこうだと話し始める。
我に返ったのと同時に、和臣が振り返った。
「てなわけで、七時四十分に表に集合だから」
「ちょっと待った。全員集合って何!?」
「何って…学校四人一緒に行くだろ?」
和臣は、当然のように言い放ってくれた。
…………………………やっぱりこうなるわけね。
人の気も知らないで暢気に喋り続ける三人を見ながら、私は静かにため息をもらした。
もはや、私の周りには諦めムードしか漂っていない。
とりあえず、私の高校生活にあるはずだった平穏という言葉が早くも崩れ去ったと、入学前から確信してしまった……。
end.
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