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銀細工の蝶
同族少年's

「何やってんだテメーはっ!!」

「てぇっ!」

 反射的に開いた目に映ったのは、首根っこを掴まれた状態の克史とその後ろに立つ三人の少年の姿だった。

 一人は言われずとしれた棗。顔にはしっかりと青筋が浮かんでいる。

 その隣には新が、棗にも引けもとらない怒気を含んだ微笑みを浮かべている。その手には、無惨に潰れたポテトの袋が握られていた。

 さらに背筋を震わせる冷たい空気を背負った少年が、ただ何も言わずじっと克史を眺めていた。克史と同じ、白を基調とした制服を着ている。

「何をしてるのかな、雑賀?」

「ん?新程じゃないよ。抜け駆けは関心しないなぁ」

「抜け駆けじゃねぇよ。事前に言っといたもん。北條も知っているはずだぜ」

「何だよ、お前ら知り合い?」

「ま、同族」

 不機嫌そうな棗が聞くと、新はため息をつきながら頷いた。

 棗と新の会話を無視して、克史ともう一人の少年に話し掛けている。

「ほらな、今日中に会えただろ?」

「…………………………」

「ねぇ、統也。何か喋ってくれないかなぁ」

「…………………………」

「…………………………」

「…………………………」

「わかった、ごめん。俺が悪かった。いやもう、本当に反省してますから」

 克史が降参を示すように軽く両手を掲げると、少年は諦めたようにため息をついた。

 頭が状況に追い付かないでいるあげはの代わりに、棗が口を開いた。

「で、アンタら誰?」

「だから同族―――――」

「あ、君噂のなっちゃん?」

「…………………………」

 棗の顔が瞬間的に引き攣る。それはもう、条件反射としか言いようがなかった。

 『なっ?』と新が声をかけてくるが、反応できる余裕もない。

「そっかぁ、君が〈観戦者〉のなっちゃんか。わかってると思うけど俺も神サマ属性だから………あれ、どうしたよなっちゃん?」

 フルフルと震え出した棗に、克史は不思議そうに首を傾げた。

 どこかでブチンと何かが切れた。

「―――――ど」

「ど?」

「どぉでもいいがなっちゃん言うなぁっ!!」

「えー。でも俺、『〈観戦者〉のなっちゃん』としか聞いてないし、しょうがないって。なぁ、統也?」

 統也と呼ばれた少年は、肯定するように肩を竦めて見せる。

 それに便乗するように、新が挙手しながら、

「あ、俺もなっちゃんの名前知らねーや」

「お前もかっ!?」

「だって、『なっちゃん』としか聞いてねぇし」

 さも当然と言わんばかりに胸を張って言ってのける新に、棗は怒り心頭といった雰囲気で迫る。

「そもそも、何でそんなに嫌がるんだよ。可愛いじゃん『なっちゃん』」

「とりあえず何か嫌なんだよ!!」

「我が儘だなぁ、なっちゃん」

「っ………お前なぁ!!」

 終わりの見えない問答を呆気に取られていたあげはは、ようやく我に返って自分の置かれた状況を思い出した。

 決して広いとは言えないファーストフード店内で騒ぐ男子高校生が四人。いろいろな意味で周囲の視線を独占している。

 そのほぼ中央にいるあげはは、縮こまるしかなかった。

 さっきより人数が増えた分、気まずさと恥ずかしさが倍増している。

 完全に硬直してしまったあげはだったが、突然その腕をぐいっと引き上げられる。

 驚いて顔を上げると、無言のままの統也と目があった。

 ぽかんとしているあげはに気付いた統也はため息を一つつくと、あげはを席から立たせ、足元に置いていたカバンを拾い上げる。

「荷物これだけ?」

「え、あ、はい」

「…ここだとうるさ過ぎるから」

「へぁ、あの、ちょっと!?」

 戸惑いを隠せないあげはの手を引いて、統也はさっさとファーストフード店から出ていく。

 後ろから棗たちが何か言いながら追いかけて来るが、統也は一切止まろうとはしない。

 されるがままにされていたあげはが躓いてしまい前のめりに倒れそうになると、統也は自然な動作でそれを受け止めた。

「ありがとう、ございます……」

「…………………………」

 統也は何も言わずに一度手を離すと、あげはの手を握り直してまた歩き出す。

 ぽかんと統也の後ろ姿を眺めていたあげはは、ゆらりと揺れる薄紫の髪色を思い出していた。



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