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銀細工の蝶
休憩中…

 エアーホッケーでの激闘には結局決着がつかず、三人は近くのファーストフード店に移動した。

 棗は、テーブルの上に脱力したように突っ伏している。不覚にも『楽しかった』と思ってしまった自分が恨めしい。

「棗、大丈夫?」

「なんとかな」

 小さく吐き出すように呟いた。

 が、正面に座る新はけたけた笑い出す。

「あれだけはしゃぎまくってた奴のセリフがそれかよ」

「うっせぇなぁ、別にいいだろうが。というか、なんでそんなに元気なんだよ」

「そりゃぁ、実力出し惜しみしたからに決まってんだろ」

「……………」

 当然の様に言い放つ新に、棗は呆れたように言葉を失っている。

 新は、『何か問題でも?』とでも言いたそうに首を傾げながらハンバーガーに噛り付いてみせた。

 新の言う通り、これといって問題はないが、強いて言うなら棗の機嫌が右肩上がりで悪くなるくらいだろうか。あげはには今一番の大問題だ。

 何となく新の方を向いてみると、しっかりと目があった。

 あげはが思わずびくっとすると、ニッコリと微笑み返してくる。

 あげははそのまま困ったように俯いたのだが、それでも新の視線はしっかりとあげはを捉えている。

(うぅ…どうしよう……)

 頭の中がぐるぐるしてきたあげはの耳に、不機嫌そうな声が聞こえて来たのはすぐの事だった。

 テーブルをリズミカルに叩く仕種は、棗の癖の一つだ。

「で、何の用だよ」

「ん?単に遊びに来た……………のは冗談だって、冗談。そんな怖い顔すんなよなっちゃん」

「『なっちゃん』言うなっ!!」

 顔を引き攣らせたまま、棗は拳をテーブルにたたき付けた。

 が、新はケタケタ笑うだけだ。

「まぁまぁ、なっちゃん。これでも食えや、なっちゃん。腹減るとイライラするもんなぁ、なっちゃん」

「………てんめぇ」

「あ、ポテト無くなった。なっちゃんに食われちったよ」

「お前が勝手に人の口に押し込んだんだろうが!ってこら、待ちやがれ!!」

 財布片手に席を立った新に続いて、棗まで席を離れた。

(え、えぇっと…)

 一人ぽつんと席に取り残されたあげはは、ぽかんと二人の後ろ姿を見送った。

 さっきまでの二人の話し声(主に棗)が結構なボリュームだったせいか、周囲の視線があげはの座るテーブルに集まっている。

 今更何かできるわけもなく、あげははただその場で俯いて縮こまるしかできなかった。

(うぅっ……二人共早く戻って来てよぉ)

 顔が熱くなるのを感じながら、あげはは必死に二人の帰還を懇願していた。



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