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銀細工の蝶
予感

「おはよう統也。今日も不機嫌そうだね」

「……………そう言うおまえは今日もうさん臭そうだな」




 わざわざ確認しなくても誰だかわかるものの、統也は面倒くさそうに振り返る。

 そこにはいつも通り、同じ制服を着た少年の姿。

 ものすごく迷惑そうな統也に対して、少年はものすごく満足そうだ。

「で、結局昨日はどうなった?」

「おまえ……知ってて言ってるだろう」

「さぁ。俺はその場にいなかったから何とも言えないなぁ―――で、《銀》の姫君はどうだった?」

「……………」

 ものすごく満面な笑顔に対して、統也は力いっぱい嫌そうな顔をする。

 本人は軽く睨んでいるつもりだろうが、ひどく整いすぎたその顔では、周囲の温度を二度程度低下させている事は確実だ。

 が、慣れきった少年がそんな些細な事を気に止めるはずもない。

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「―――待て待て待て待てそこの青少年」

 何事もなかったように歩き出した統也の肩を、満面の笑みががしっと掴んだ。

「聞いてる事には答えようよ」

「すでに知ってる奴に話す事は何もない」

「いやいや。出所わからん噂より実際に見た奴の話を聞きたいじゃないか」

「だったら、自分で実際見てくればいいだろうが」

「今聞きたいんだけど―――って、お〜い統也く〜ん」

 さっさと歩き出した統也の後を、少年が追いかけてくる。

 真横をすり抜けた風に、遅咲きの桜が舞った。

 揺れる花びらを目で追いながらも、統也の足が止まる様子はない。

 一定のスピードで歩いていた統也の横に、いつの間にか少年が追い付いていた。

「なんだよ」

「んー?噂の姫君に会うのが楽しみだと思ってな。もうすぐ会えるかなー。できれば今日中に」

「ずいぶんな要求だな」

「いや、会えるだろ。おまえいるし」

「……………」

「ところで、数学の課題やってきた?」

「…………………………やった」

 諦めた様子の統也に、少年は満面だがどこか真っ黒な雰囲気を含んだ微笑みを投げて寄越してくる。

 即刻返品したい心境だったが、もちろん無視された。



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あきゅろす。
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