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銀黄の翼は天に舞う
力量@

 決して、カイクの腕が悪いわけではない。

 今まで巡礼司祭として一人で各地を巡回し、その度に魔獣やら盗賊やらの相手をしてきている。

 もちろん、騎士団本部であるエルモ=ウェルダでも狙撃訓練をこなしているし、成績も常に上位に食い込んでいる。

 しかし、いくら小型機械銃を構えても、銃弾が掠れる気配もしない。

 リヴァイアサンの動きは、決して速いわけではない。

 スピードだけで見るなら、今までにもっと素早い魔獣を倒した経験がある。

 しかも、その時の魔獣は複数いて、カイクはそれらすべに致命傷を与えている。

 相手をじっくり観察しているようなスピードなのに、カイクの銃弾ははかったようにリヴァイアサンに届かない。

 まるで、銃弾が自分の意思で彼を避けているような気さえしてきた。

 カイクは片目を細め、もう一度小型機械銃を構える。

 しかし、標準を定めたと同時に、目標となるはずの男の姿が消えていた。

 カイクはもちろん驚きはしたものの、すぐにその気配に気がつく。

 咄嗟にのけ反るようにして後ろに下がり、顔を右側に傾けた。

 瞬間、カイクの顔のすぐ真横―――ついさっきまでカイクの顔があった場所に、硬い拳がゴウっと音をたてて走った。

 避けられたというのにリヴァイアサンの顔には焦りの表情一つなく、淡々とした様子で右膝を叩き込む。

 気付いたカイクも何とか受け身を取ろうとしたが間に合わず、体でその蹴りを受け止めた。

 口から空気が抜ける音がして、そのまま本棚と机の並ぶ一角に打ち付けられる。

 盛大な破壊音と共に崩れた本棚たちを見ていたリヴァイアサンだったが、ふいっと視線を移した。

 その先にはダガーを構えたままのカナリアと、頭痛を堪えるように額を押さえるエピリスの姿があった。

 リヴァイアサンは一歩踏み出そうとしたが、数発の銃声が響いた瞬間に後ろへと跳んだ。

 しかし、着地したのと同時に銃弾がリヴァイアサンの頬を掠めた。

 そっと触れてみると、指先がうっすら赤く染まっていた。

 崩れた本棚の影から、しゃがんだ状態のまま小型機械銃を構えたカイクが姿を現した。

 全身を強く打ち付けたらしく、その顔には苦痛の色が浮かんでいる。

「〜〜〜〜〜っ!」

「大丈夫じゃないな………本が」

 エピリスのセリフの最後はかなり小さな呟きだったにも関わらず、何故かカイクの耳にはしっかり届いていた。

(いやぁ、うん、まぁ………)

 エピリスの人となりを今一度理解したカイクだったが、すぐに表情を引き締める。

 ようやく銃弾が相手を捕らえたが、素直に喜ぶ事が出来なかった。

 そもそも、捕らえたとは言ってもほんの少し頬を掠めた程度だ。

 相手に与えたダメージ何てものを考える方が難しい。

 カイクは、これ以上本に被害を加えないよう注意を払いながら立ち上がる。

 その間、何かしらの攻撃は一切なかった。

 むしろその場から一歩も動く事もなく、ただじっとカイクを見ているだけだ。

「どうもお待たせして申し訳ありませんねっ」

「……………」

(返事なしかよ……)

 カイクは内心舌打ちをしながら、小型機械銃をもう一度構えた。

 が、対するリヴァイアサンはまったく動く様子はない。

 それどころか、小さくため息をつく始末だ。

 さすがにカイクも苛立ちを隠せない。

 素直に苛ついていたカイクに、リヴァイアサンは小さく口を開いた。

「それだけか……」

「は?」

「お前はそれだけか、カイク・ログヴァード」

 リヴァイアサンが何が言いたいのかわからず、カイクは片眉をひそめた。

「お前の力はそれだけなのか」

「だから何なんだよ………っ!」

「―――何故生まれ持った力を使わない」

 息が詰まった。


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