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銀黄の翼は天に舞う
影、再びC

 ここ数日、慢性的に頭痛が続いている。

 その最終的な元凶がエピリスの視界に広がっている。

 轟音と共に屋敷全体が激しく揺れ、ついに壁に巨大な穴が開いたのだ。

 カナリアが引きずってくれなければ、崩れた壁に押し潰されていたかもしれない。

 それでも、卵だけはしっかり持っている。

「申し訳ありません。屋敷が破損しました」

「見ればわかる」

 こめかみを揉みほぐすエピリスに、さすがのカナリアもしゅんと肩を落とす。

 大事な屋敷の一部を破壊された事に責任を感じているようだ。

「安心しろ。お前のせいじゃない。この責任はあの馬鹿にある」

 カナリアの頭に手を置きながら、エピリスの目は別の人物を映していた。

 崩れた壁から入って来たのは一人の男。

 手に武器らしき物は何も持っていない。

 革製の服からは筋肉のついた肩がのぞき、切れ長の目元は表情が読み取れない。

 腰を落として臨戦体制をとるカナリアを、エピリスが片手で制する。

「屋敷の壁を破壊するような客人を招いた覚えはないんだがな」

「非礼は詫びよう。玄関から失礼しようかと思ったのだが、弾かれてしまったのでこちらから入らせてもらった」

「その時点で諦めようとは思わないのか……」

「それはなかった」

「…………………………そうか」

 即答され、エピリスはぼやくしかできなかった。

 破壊されたものは仕方がないと、何とか無理矢理気を取り直す。

 すっと目を細め、男を見据えた。

「で、貴様は誰だ」

「申し遅れた。《七つの大罪》の一人、リヴァイアサンという」

 その男―――リヴァイアサンは低く通る声で、確かにそう言った。

「随分大層な呼び名だ。目的はこれだろう?」

 そう言うと、エピリスは手に収まっている卵に視線を落とした。

 乳白色の殻を指で撫でると、ざらざらとした触感がする。

 リヴァイアサンは無言のままだったが、ふと瞳を閉じた。

「大人しくそれを渡してもらいたい。こちらとしても、抵抗さえなければ危害を加えないつもりでいる」

「これだけ住居を盛大に破壊しておいてよく言う」

 呆れたようにエピリスが言うと、リヴァイアサンは無言のまま辺りを見回した。

 崩れた壁の破片に目を止め、じっと見つめている。

 表情は特に変化がないように見えるが、何となく申し訳なさそうな雰囲気を醸し出しているように見えるのは、エピリスの勘違いだろうか。

(……………調子が狂う)

 敵までこの類がくるのかと、頭を押さえたくなった。

「とにかく、コレを渡すつもりはない。いくら依頼相手が気にくわない奴でも、受けた仕事はきっちりこなす主義でね。それに、私自身、コレにかなり興味がある」

「………ならば仕方ない」

 一歩足を踏み出したリヴァイアサンに、カナリアが素早く反応した。

 エピリスを背に庇うような体制で前に出て、両手にダガーを構える。

 が、エピリスによって待ったがかけられた。

 不可解そうな顔で見上げてくるカナリアに、エピリスは平然としてみせる。

「お前の仕事はそっちじゃない。まぁ、接客といえば接客だろうが、招かねざる客の相手までしなくていい。ここは専門職に任せておけ」

 エピリスが口を閉じるのとほぼ同時に、銃声が数発室内に響いた。

 瞬間、リヴァイアサンは横に跳び、さっきまで自分がいた壁穴の方を見返す。

 早足の靴音がこちらへ近づき、動きに合わせて白い外套の端が翻った。

「……………お前もそこから入るのか」

「いや、そんな事言ってる場合じゃないでしょう」

 予想外のエピリスの第一声に、壁穴から入ってきたカイクは淡々と返した。

 その視線は、すでにリヴァイアサンの姿を捉えている。

 リヴァイアサンもまた、突然現れた青年を見極めるようにじっと見ていた。

 しばらくして、リヴァイアサンがゆっくりと口を開く。

「………カイク・ログヴァードか。タージュではマモンが世話になった」

「それはご丁寧にどうも。で、アンタは?」

「リヴァイアサン、だそうだ」

 カナリアによって反対側の壁際に立ち位置を変えたエピリスが直ぐさま応えた。

 エピリスは卵をしっかりと持ったまま腕を組み、壁に背を預けて立っていた。

 その横には、ダガーを両手に持ったままのカナリアが控えている。

 直接戦闘には参加しない事にしたようだが、纏う雰囲気だけは今にもダガーを走らせてもおかしくないような代物だ。

 カイクは、エピリスたちに向けていた視線をリヴァイアサンに戻した。

「どうでもいいが、アンタらマモンを甘やかし過ぎじゃないか?いきなり来て『遊ぼう』もなにもないだろう」

「すまない。私も仕事があったので相手をしてやれなかった」

「それはお互い様だろ?俺らだって仕事はある。しかも、かなり急ぎの内容のがな」

「奇遇だな、私も急ぎの仕事だ。しかも、ちょっとした障害が出来てしまって困っている」

「へぇ、それはこっちもだ」

「今からその障害を取り除こうと思うのだが………構わないな」

 リヴァイアサンの瞳が、スッと細められる。

 カイクも小型機械銃を掲げ、しっかりと言い放った。

「やれるもんならな」


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あきゅろす。
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