小説3 (御曹子×トリマー)
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まあ、徐々に那月から直接聞きだせばいい。
柊がもっている経験のすべてを駆使すれば、あんな子供の口を割るのは簡単だ。
「先ほどご覧になったとおり、那月は少々変わっています。放っておけば食事もしないし、ストーブさえ点けるのを忘れてしまう。…手のかかることもあるとは思いますが、どうかよろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
「中西さんの報酬は口座に振り込ませていただきますが、那月の生活費は、月に一度、月末に私が届けます。その時に私の分の夕食も用意してください。特別なものでなくて構いません。那月の様子を見に来るだけですから。…今月は来週末にしましょう」
「わかりました」
面接の翌日から、柊は那月の家に住み込んだ。
とりあえず、柊を信頼させなければ、弱みを握ることさえできない。
1〜2度那月に話しかけ、友人のように接したほうがよさそうだと計算した。
住み込んだその日のうちから、ハウスキーパーとは思えないような、ぞんざいな口調で話しかけているが、柊の計算どおり、那月はそれを気にしたふうもなく、むしろ嬉しそうだった。
〜〜〜〜〜〜〜
かちゃ…。
ダイニングの奥にある、バスルームへと続くドアが開いた。
はっとしてそちらを見る。
風呂上がりのピンクの頬をした那月が、そこにいた。
いつもどおり、髪の毛からぽたぽたと滴をたらしたまま、パジャマのボタンは下のほうしか留めていなくて、今にも肩から脱げ落ちそうだ。
「またお前は、そんな格好で…!」
柊は眉をひそめて那月の手からタオルを取り、ごしごしと頭を拭いてやる。
手櫛で髪の毛を整えて、パジャマのボタンも上まで留めた。
「これで良し。ちゃんと温まったのか?」
「ん」
こくっと頷く那月は、小動物のようだ。
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