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小説3 (御曹子×トリマー)

できる?と聞かれて、人を意のままに操ってきた笑顔を作ってうなずいた。

やはり、那月の先ほどの言葉には、なんの意味も含みもないのだろう。
詐欺師に、雇うことが前提の条件をつきつける人間はいない。

剛がしきりに謝るなか、那月はすっと立ち上がり、

「柊さん、いつから来られる?」

「いつからでも、明日からでもOKですよ」

「そう、じゃあ、決まりだね。剛さん、あとはよろしくね。僕はもう仕事に戻らなくちゃならないから。…柊さん、また明日」

と、滑るような足取りで部屋を出ていってしまった。

「大変に申し訳ありません。那月は育った環境が少しばかり他と違っているので、風変わりなところがありますが、そんなに悪い子供ではありません。お気を悪くされたでしょうが…」

「いいえ、すこしばかり驚きましたが、彼とならきっとうまくいくでしょう」

少しくらい動揺したからといって、いまここで計画を止めるわけにはいかないのだ。

柊の笑顔に、剛はほっとした様子を見せ、
「安心しました。ではまず、家の中をお見せしましょう」

那月の家は、どの部屋もゆったりと作られた3LDKだ。
一階部分に、リビングダイニングキッチン、風呂場、トイレ、そして那月の部屋があり、二階には使われていない部屋が二つ。

家の中を剛に案内されながら、柊は微かに首を振った。
初めて来たにも関わらず、この家は柊にとって懐かしく優しく感じる。

7歳まで母親と暮らした家に、雰囲気がよく似ているのだ。

この、なつかしく優しい感情に流されてはいけない、と、頭のどこかが警報を発している。

(なるべく早く、仕事を済ませよう)
長くここにいてはいけない。

「二階のどちらの部屋を使っていただいてもかまいません。どちらも南向きで、今の季節は暖かいし、夏は風が吹き抜けて気持ちいいですよ」

「那月さんは、いままでここに一人で?」
「ええ。これまでは私がちょくちょく様子を見に来ていたのですが、仕事の関係でそれが難しくなりましてね。それで、ハウスキーパーを探していたのです」

那月がどういう経歴を持つのか、ますます解らなくなる。

19歳の若さで一軒家で一人暮らしというのも不自然だが、顧問弁護士がついているのも、普通ではないだろう。

そのあたりのことを探りだせれば、意外と簡単に那月を社会的に消してしまえるかもしれない。


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あきゅろす。
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