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小説3 (御曹子×トリマー)

柊は笠井にむかって、にっこりと天使のように微笑んだ。

「解っています。そのときは、俺のほうから時間と場所を連絡しますから、写真を撮りにきてください」

楽しそうにくすくすと笑いだした柊を見て、笠井は満足そうに頷いた。


笠井によってセッティングされた面接の場所は、那月の自宅だった。

柊が住んでいるマンションから、三回電車を乗り換えて一時間半、それからさらに歩いて20分だ。

那月の顧問弁護士だという、守山 剛〈もりやま ごう〉という男が出迎えてくれた。
年は笠井と同じくらいだろうが、笠井よりはるかに人の良さそうな顔をしている。

「こちらへどうぞ」
と、招き入れられた場所は、南向きの広いリビングダイニングキッチンだ。

日の光が大きな窓から降り注ぎ、置いてある家具は木と布製の暖かみのあるものだ。

部屋の中央より少し窓に近く置かれた大きなソファに、那月はちょこんと腰かけていた。

「初めまして」
と、柊が声をかけても、大きなマグカップを両手で持ったまま一礼したのみである。

剛が紅茶のカップを柊の前に置いた。

「気を悪くしないでいただきたいのですが、中西さんの履歴書を拝見してから、少々調べさせていただきました」

「はい」
柊はにこりと笑みを浮かべる。

もともと、調べられることを前提として書いた履歴書だ。
嘘は書いていない。

「多田総合専門学校理事長の、ご子息ですね」
「そうです。もっとも、愛人の子ですから、苗字は違いますが」

「今も、お父様のもとで仕事をしていらっしゃる。…そんな方が、なぜハウスキーパーを?」

きた、ここが正念場だ。

「はい。一応、対外的には父のもとで働いているということになっています」

「対外的には、とおっしゃいますと?」

「わたしは、愛人の子です。正妻の子供たちが大学を卒業し、父の手助けができる年齢になれば、もう必要のない者です」

ここで瞳を伏せて少しうつむけば、悲しそうな顔に見えるはずだ。

「それでも、食べていかねばなりませんから、今までは何とか父の下働きのようなことをしてきましたが…。
守山さんはご存知でしょうか、多田総合専門学校は、来年、渋谷校を開校します。そのための土地の買収も済み、もう校舎ビルの建設も始まっています」


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