小説3 (御曹子×トリマー) 47 両手をあげて見せ、後ろへ下がる。 その姿は、たちまち人ごみに飲まれていった。 「那月…?」 しがみついてきたまま、細かくふるえている那月を見下ろした。 顔が真っ青だ。 「怖かったのか?」 那月がうん、と頷く。 「知らない人に、あんなふうに話しかけられたの、初めてだからびっくりして…」 「もう大丈夫だ」 「うん」 カタカタとふるえているこの様子では、食事は無理かもしれない。 あの男を呪い殺したくなる。 「帰ろうか?」 その言葉に、那月がびっくりしたように柊を見上げた。 「どうして?ごはん食べないの?」 「ここはもう嫌だろう?」 少し首をかしげて、那月が考える。 「そう…。ここはあんまり僕向きじゃないのかもしれないけど、でも、柊さんとならきっと楽しくなるよ。柊さんさえ嫌じゃなければ、ごはん食べよう?」 自然に柊の顔が綻ぶ。 「じゃあ、行こうか」 今度ははぐれないように、柊はしっかりと那月の肩を抱いて歩き出した。 「おいしいね!」 「そうか、それはよかった」 静かなレストランの中で、柊は那月を見て目を細めた。 那月の口から聞いたことはなかったが、那月が15歳までイギリスにいたらしいという事は、調べがついている。 ナイフとフォークを扱うことはできるだろうと、美味いフルコースを出してくれる店を選んだが、那月の反応は想像以上だった。 那月は日常、箸を使っているが、その箸で魚の骨を取るのは苦手だ。 だが、ナイフとフォークならば上手に魚の骨が外せるのだ。 にこにこと美味しそうに料理を口に運ぶ那月だが、時折ふっと考え込むような表情を見せる。 やはり、先ほどの男のことが尾を引いているのだろうか。 「ねえ、柊さん」 「ん?」 「僕ね、15歳まで、イギリスにいるお祖父さんに育てられたんだ」 [*前へ][次へ#] [戻る] |