小説3 (御曹子×トリマー)
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たまに外出しても、必ず那月のショップで働いている人間たちと一緒だ。
店の客として近づくことも考えたが、那月は客の前にさえめったに出ることはないようだ。
いよいよ行き詰ったかと思った時、笠井が情報を持ってきた。
「今井那月の弁護士が、那月のハウスキーパーを探しているようです」
笠井は、いつもの表情の無い冷たい顔でそう言った。
「その情報はどこから?」
「偶然ですよ。弁護士の世界は広いようでいて、狭いですからね。直行さんの顧問弁護士のつてを辿って、那月についている弁護士を調べていたら、小耳にはさんだのです」
「…参りました。さすがですね」
「経験の差ですよ。25歳の柊さんと、45歳のわたしが同じ仕事しかできなかったら、直行さんに役立たずと言われてしまいます」
柊は、いまだに直行と笠井がどういう関係なのか、理解できない。
直行が笠井、と呼び捨てにするのは当然なのだろうが、笠井が、直行を理事長、と呼ばずに直行さん、と名前で呼ぶのである。
笠井が柊の前に、一枚の紙を置いた。
「履歴書?」
「今井那月のところへ潜り込んでみませんか?」
「俺が、ですか?」
「ええ、人を使うことは簡単ですが、後々それをネタに強請られでもしたら厄介ですからね。こういったことは、なるべく自分たちで動いたほうがリスクも少ないし、早く済む。…柊さんは、家の中のことを一通りできるでしょう?」
「それはそうですが…」
柊は高校に入学して一人暮らしを始めてからずっと、ハウスキーパーを使わずにきた。
他人に家の中をいじられるのが嫌いだということもある。
だがそれよりも、子供の時からどこにいても仮面を被り、誰にも心を許さずに来た自分が、たった一人きりになれて仮面を脱ぎ捨てられる場所に、誰も入れたくないというのが理由としては大きかった。
「よろしければ、面接をセッティングしますが?」
「お願いします」
うなずいた柊の瞳を、笠井の冷たい目が覗き込んだ。
「いいですか、柊さん。直行さんは人殺し以外のどんな手をつかってもいい、と言ったのですよ」
笠井に改めて言われなくても、その言葉の持つ意味はじゅうぶん過ぎるほど解っている。
場合によっては、那月を強姦して写真を撮らなければならないだろう。
相手が男でも女でも、これまで笠井と組んで何度もしてきたことだ。
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