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小説3 (御曹子×トリマー)

「今井那月は若干19歳の天才トリマーだ。15の歳でイギリスのトリミングコンテストで優勝して以来、世界各国で開かれているコンテストに出て、10回以上も優勝している。一昨年に日本に来て、東京の外れでトリミングショップを開いているが…」

直行が、一葉の写真をテーブルの上に置いた。

「一昨年、去年と、日本のコンテストに出て優勝している。それだけではない、自分がエントリーしているのとは違うクラスに、自分のショップで働いているトリマーをエントリーさせ、そいつらまで優勝させている」

「すみません。トリミングのコンテストの事は詳しく知らないのですが、クラスがあるのですか?」

「そう、一般、C級 B級 A級、そして師範、五つのクラスがあるのよ。そのうち、私がエントリーするのは、A級のクラス。今井那月とぶつかるのよ。…それだけじゃないの。那月のショップで働いている人たちが、必ず、C級とB級のクラスにエントリーしてくるわ。私たちは勝ち目がないのよ」

蛍子が舌足らずの話し方で説明してくれた。
聞きようによってはかわいいのかもしれないが、柊には耳障りなかん高い声でしかない。

「笠井に、コンテストを主催する協会を抱き込んで、蛍子を優勝させろと指示をだした。ところが…」

「今井那月の技術は桁外れなんですって。海外から審査員を招くこともあるから、今井那月が出てくる以上、私は優勝できないそうよ」

なるほど、と柊は頷く。
いつもの笠井なら、トリミングコンテストを主催する協会を徹底的に洗って、汚点を見つけ脅しをかけるか、金をばらまいて抱き込むはずだ。

だが、笠井はそうしなかった。

協会を脅したり抱き込んだりするよりは、今井那月を社会的に抹殺したほうが、はるかに簡単で金もかからないということなのだろう。

テーブルに置かれた写真を手に取り、つくづく眺める。

黒い小さな犬を抱いて笑っている人物は、とても19歳とは思えないくらい幼く見える。

しかも、性別がはっきりしないほど中性的な顔立ちだ。

「…男ですか?女ですか?」

「かわいい顔をしているが、男だ。…いいか、柊。協会側は、今井那月さえ出てこなければ、蛍子の優勝は決まったようなものだと請け合った。殺人以外のどんな手をつかってもいい。今井那月をコンテストに出すな」

「わかりました」



今井那月の身辺を調査してみて驚いた。
那月には15歳以前の過去が無い。

イギリスのトリミングコンテストで優勝するまで、どこで何をしていたのか、どうやっても調べられないのだ。
ようやく分かったことと言えば、那月の国籍が日本にあるということくらいだ。

しかも那月は、毎日、同じ敷地内に建っている店と自宅を往復するだけで、ほとんど外出しない。

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