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小説3 (御曹子×トリマー)
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日の当たるところだけを歩いてきた人間の顔だ。
素直で、真っ直ぐで、他人への中傷や意地悪などとは無縁の切れ長で明るい瞳。

人には、日陰を歩く者と日なたを歩く者の二種類がいる、などということは知らないだろう。

「申し訳ありません、那月はまだ身支度を終えていません。あと10分ほどで店に行きます」

言外に、さっさと店に戻ってそこで待て、と伝える。

「まだって…、寝坊ですか?」
龍之介が、何のためのハウスキーパーだという顔をして柊を見た。

「いいえ」
柊はとびきりの笑顔を浮かべる。

お前は那月の遅刻の理由を知らなくていい。
知る必要もないし、教えてやりたくもない、そう思っての笑顔だ。

鈍い人間には通じないが、龍之介にはきちんと伝わったようだ。
きっと唇を噛んで、柊を睨みつけてくる。

「でしたら、あと10分、ここで待たせてもらいます」

そのとき、那月が姿を現した。
左手にカフェ・オ・レの入ったマグカップを持ったままだ。

「龍之介くん、遅れてすみません。これを飲んでしまったらすぐに行きますから、先に仕事を始めていてくれますか?」

いつもの幼い口調ではない。
那月を見ると、この前店で見た時のピンと張った厳しい顔をしている。

「え?那月さん、今、なんて…?」

柊にははっきりと聞こえる那月の声が、龍之介には聞き取れなかったらしい。

那月が助けを求めるように、柊を見上げた。

「那月は、これを飲んでしまったらすぐに行くので、先に仕事を始めていてくださいと言ったのですよ」

龍之介にことさら優しく言ってやって、これでいいのか?と那月を見下ろすと、那月はにっこりと笑った。
ほんとうに、かわいい。

「那月さん、本当にそう言ったんスか?」

諦めの悪い龍之介の問いに、那月がひとつ頷く。

「…わかりました。店で待ちます」


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