小説3 (御曹子×トリマー)
2
やがて、父親である直行がそれに目を付ける。
直行にとっては、血を分けた子供も、自分の立場を向上させるための道具でしかない。
柊が高校に入学して一人暮らしを始めるとすぐに、直行は自分の片腕である笠井 信吾〈かさい しんご〉を教育係として柊につけた。
直行の片腕とは言っても、笠井が直行のもとでしている仕事は、校舎建設のための地上げや、一流の講師を手に入れるための脅し、強請などの汚れ仕事だ。
笠井は、自分が強請った人間が、それによって自殺したとしても、眉ひとつ動かすことなく、すべてを直行の利益になるように取り計らう。
そういった仕事のやり方を一から仕込まれた柊は、25歳の若さで、笠井と並んで直行に最も信頼されるようになった。
それは、人がうらやむほどの収入と社会的地位を意味する。
(いずれは、この俺がすべてを乗っ取ってやるさ)
何不自由なくわがままいっぱいに育てられ、少し甘い言葉をかければコロッと騙されてくれる正妻の子供たちなど、追い落とすのは簡単だ。
そんな柊が、東京都は名ばかりのへんぴな場所にある、今井 那月〈いまい なつき〉の家にハウスキーパーとして住み込んでいるのには、理由がある。
いまから一カ月ほど前、柊は直行がつい最近囲ったばかりの若い愛人、戸田 蛍子〈とだ けいこ〉のマンションに呼び出された。
そこでいきなり、
「今井那月を社会的に抹殺しろ」
と、直行に言われたのだ。
「なんですか父さん。理由もなしにそんなことはできませんよ。そもそも、今井那月とは、何者です?」
柊は、ほとんど下着といってもいい格好をしている蛍子をほとんど無視して、直行と向かい合った。
「お前、蛍子の仕事を知っているか?」
「ええ、多田総合専門学校トリミング学科の、技術指導責任者、と聞いていますが」
(新宿のペットショップで働いていたのを拾ってきたんだろうに…)
「そうだ。お前も知っているとおり、来年4月に渋谷校を開校することになった。校舎ビル丸ごと一つを、トリミング学科のみに使う予定だ。蛍子をそこの校長にする」
「なるほど」
(この女にずいぶん入れ込んでいるようだが、それだけの価値がある女かどうか…)
「日本で最大規模のトリミングの専門学校になるはずだ。生徒を集めるためには、校長及び技術指導員にそれなりの肩書が必要になる。…蛍子をはじめとする何人かの技術指導員に、次のトリミングコンテストで賞を取らせたい」
「言っていることは、よく解ります」
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