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小説3 (御曹子×トリマー)
17
今まで何度も言ってきたセリフを、頭の中で繰り返す。

騙したのか、と泣き崩れる相手を見ても、なんとも思わなかった。
むしろ、泣いて歪んだ顔を、醜いとさえ思った。

何度もしてきたことと同じことをして、那月を泣かせるのだ。
ズキン、と胸が痛む。

駄目だ、この感情は危険だ、近付くな、とどこかで声がする。
これに溺れてしまったら、取り返しのつかないことになる。




(明らかに、避けられているな)
柊は、いつもより30分も早く店へと行く那月の後ろ姿を、リビングの窓から見送って唇を噛んだ。

昨夜、いつものようにびしょびしょの髪でバスルームから出てきた那月は、柊が拭ってやろうとすると、
「いい!自分でやる」
ぱっと柊の手を避けた。

そして今朝、起こしにいった柊が部屋に入る前に、ベッドから飛び出してきた。
こちらを見ても、にこりともしない。

朝食もうつむいたままさっさと済ませ、寝癖を直してやろうとすると、
「このままでいい」
と、玄関から飛び出して行ってしまったのだ。

いくらぼうっとしていて幼く見えても、那月は19歳だ。
男同士でキスをする、ということが普通ではないと解っているだろう。

気持ち悪いと思っただろうか。
怖がられてしまっただろうか。

「馬鹿らしい」
頭を一振りして、声に出す。
「那月が気持ち悪いと思おうが、怖いと思おうが、知ったことか」

いつものように、愛の言葉をささやき続けて、強引にこちらを向かせてしまえばいい。

ちらっと時計を見て、朝食の後片付けをするためにキッチンに入った。

那月は昼食を店で摂るので、朝送り出して家事を済ませてしまえば時間ができる。

駅前まで買い物に出てみようかと考えた。

なにしろ、この家は駅から歩いて20分以上のところにある。
近所にはコンビニはおろか、ジュースやたばこの自販機すらない。

あるのは、よる8時には閉まってしまう、雑貨店に毛の生えたようなスーパーマーケットだけだ。

都心に住んでいた柊にとって信じられないような環境だが、ここへきて6日目、特別不自由を感じたことはない。

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