小説3 (御曹子×トリマー)
14
不愉快をなんとか飲み込んで、ちょうど犬をケージに入れようとしていた洋子に、
「どうして彼は、コンテストに出るのをあんなに嫌がっているのですか?」
と聞く。
「コンテストに出で賞を取ったら、ここを辞めなきゃならないから、だと思います」
「ここを辞めるって、なぜ?」
「那月さんがこの店を開いたときに決めたんです。賞を取ったらここを出て、もっと大きな店に行って、次の技術者を育ててくださいって…。この店、最初は那月さんを入れて10人もいたんですよ。次々と賞を取って辞めていって、最後に残ったのが、この三人」
「実際の話、那月さんの店にいて、コンテストで賞を取ったなんて言ったら、どこの店でもすぐに雇ってくれるんですけど…。龍之介くんはあのとおり那月さんっ子だから…。中西さん、ライバルかもよ」
後ろから聞こえてきた愛の言葉になぜだか動揺してしまい、それを隠すために、人を意のままに操ってきた笑顔を作った。
愛と洋子がぽっと赤くなる。
「こら、龍之介くん、苦しい。離してください」
那月の声が聞こえる。
「いつまでも駄々をこねていてはダメです。本当なら龍之介くんは去年のコンテストに出ているはずだったんですから」
「だって俺、那月さんから離れたくないですもーん」
「そんなことを言っていてはダメですってば。僕だっていつまでこの店をやっているか解らないですからね」
「えーっ!那月さん、この店やめちゃうの?」
龍之介がいっそうきつく那月を抱きしめる。
「そんなの、嫌だっ」
「離してくださいってば。すぐにやめてしまうわけじゃないんですから」
「でも、やめるんでしょ?」
「やめるにしても、君たちのことをきちんとしてからですよ。こらっ、離れなさい」
那月と龍之介のじゃれ合う姿が、じりじりと柊の胸を妬く。
これ以上ここにいたら、龍之介を殴り飛ばしてしまいそうだ。
やっとのことで裏口から外へ出る。
不愉快だ。
イライラする。
ムカつく。
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