小説2 (鬼×神と人のハーフ) 完結 3 そのせいか、主夜には女性との逢瀬を楽しむといった気持ちはさらさらない。 もともと、鬼の出生率はとても低い。 2000年はあるその寿命のなかで、鬼族の女が出産するのは一生に一度あるかないかだ。 だから、家を継ぐことが決まっている鬼は、青年期に入ると早々に数名の鬼女と関係を持ち、跡継ぎとなる子を生すのが務めだ。 〈子作りに精を出すなど、つまらん生き方だ〉 主夜は苦々しげに思いをめぐらす。 〈女などくだらん生き物だ。見かけばかり美しく装って愛の言葉をささやくが、上辺だけのこと。抱いてもわざとらしく喘ぐばかりで、薄目を開けてこちらの様子を窺っている〉 「−がいいわ」 「え?」 「嫌だ、聞いてなかったの?私、この映画がいいわ」 「ああ」 気付けば映画館の前に立っていた。 今、集客数一番の恋愛映画だ。 〈くだらん〉 主夜の口元が歪む。 神も鬼も人も、なぜ男と女が泣き、わめき、笑い、やがてくっ付くだけのこんな物語を有難がるのか、主夜には理解できなかった。 〜〜〜〜〜〜〜 長野県戸隠山。 幾重にも目くらましの結界を張り巡らせたなかに、主夜の家がある。 いつまでも両親との同居は気詰まりだろうと、父親が庭の一部を主夜に明け渡してくれたのだ。 そこに、独立した家を建てて住んでいる。 9部屋あるこの家で、主夜が主に使っているのは寝室とそれに続く書庫だけだ。 影の星と、身の回りの世話をしてくれる使役鬼の麻との三人暮らしには、この家は贅沢なほど広いといえる。 〈早く孫の顔が見たいのだろうな〉 主夜は両親の善良そうな顔を思い浮かべて、多少の罪悪感に囚われる。 「お帰りなさいませ」 玄関を開けた途端に、そう声がかかった。 足音も立てず、滑るように星(せい)が姿を現す。 星は代々戸隠に仕えている鬼無鬼(きなき)の鬼だ。 主夜とほぼ時を同じくして生まれ、幼いころから影として主夜に付き従っている。 肩まで届く素直な茶色い髪と、女性的で優しげな顔と物腰。 おとなしそうで、頼りなげだが、常に冷静沈着でその行動は的確な判断に基づいている。 100年前、主夜の父親が鬼王への謀反という濡れ衣を着せられたことがあった。 そのとき、皆の非難の矢面に立った主夜のそばで、しっかりとしたバックアップをしてくれたのが星だ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |